77.5話 ドクターとLEチルドレン2 ~世話焼きなギルフォード~

「父さん、今日もお出掛け?」


 ギルフォードの息子アルは6歳になったばかり。

 父親の仕事が何なのかアルには理解出来ていなかったが、普段家を空けている事を鑑みて周りに必要とされている人間なのだと誇らしく思っていた。


「あぁ、今日も遅くなると思う。いつも遊んでやれなくてごめんな……」


「ううん、大丈夫。母さんもいるし、まだ喋れないけどノアもいるし!」


 嘘ではないが、遊び盛りの年齢のアルにとって、それが精一杯の強がりだった。


「そっか、ありがとな。父さんがいない間、母さんとノアを頼んだぞ」


「うん、任せて!」


 ギルフォード本人も、アルが強がっているということは当然気付いていた。

 それと同時に、こんな状況になってしまった元凶である世界大戦をとても憎んでいた。

 しかし、今やその大戦のおかげで飯を食えている現状に揺らいでもいた。


 彼が高給取りな理由。

 それは、彼が偶然発見した人体から高性能なAIを抽出する技術のプロジェクトリーダーに抜擢されたから。

 彼が発見した技術は、抽出した人間の思考を読み取り、より人間的な考えを持ったAIを生み出す技術。

 技術自体に確実性はあったのだが、現段階ではAIを抽出された人間の命の保証はなかった。


 アーティファクトによる戦争が主流だった当時、この技術は確実に多くの人の命を奪う形になりかねない。

 少なくとも、今の技術では抽出対象の人間が確実に命を落とす。


 そんな思いから中々実行に踏み込めず、軍から依頼された期間から1ヶ月が過ぎていた。





「(……また子供が……。目の隈からしてあの子も感染者か……)」


 それは彼が通勤中よく目にする光景だった。

 人気のない路地裏に、行き場を失くしたボロボロの子供がうずくまっている。


「(ここは警備兵がよく来るからすぐに捕まる……)」


 軍に捕まった子供が、それ以降元気に街を歩く姿など見たことがない。

 それは子供にとって最悪を意味していた。

 ギルフォードがここで何もしないという選択をすると、文字通り見殺しになってしまう。


「君、ここにはいない方がいい。もし行く当てがないのなら、僕のところに来るといい。……って言葉は分かんないよな」


 孤児を見付けた時の彼の行動はいつもこうだった。

 何度もそれを繰り返すうちに、話しかける言葉は自然とワンパターン化してしまった。

 戸惑う子供を協力者の車で運んでもらい、都市からだいぶ離れた彼の別荘に向かわせる。

 別荘と言ってもそんな豪華なものじゃなかったが、彼の心意気に賛同するボランティアや投資家のお陰で、孤児施設をなんとか維持できていた。


 独特な目の隈の症状。

 その症状によく似た病気が、この地方には昔から存在していた。

 一種の栄養失調の類なのだが、幸いにもLEの症状を著しく遅らせる処置が共通していた。

 ギルフォードは、始めLEを知らずに孤児達を拾っていたものの、孤児達のほとんどがこの症状を発していることから、彼らが感染者だということに気付いた。

 体表にアザが発症してしまってからでは手遅れだが、目の隈で感染者を見抜き、事前に処置することが出来ればそこまで恐れるものではないと。

 もちろんギルフォードは軍に掛け合ったが、国中の子供の面倒を見るとなると労力、資金共に莫大になってしまい、相手にされなかった。


 仕事の合間を見て、彼は施設に足を運んだ。

 この都市で暮らせるレベルの言葉や計算、畑仕事、料理の作り方、酪農技術等を教えるためだ。

 施設で預かるといっても、大人になるまでの面倒は見れない。

 だから、子供たち一人一人が自分の力で生きていくための知恵を教えに来ていた。

 時には世界に興味を持ってもらえるような話を披露した。

 子供たちにとっては嘘なのか本当なのか分からない話だったが、ギルフォードが楽しそうに話す姿が皆大好きだった。


 けれど、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る