77話 蛙の子はオタマジャクシ

 以前ピノを肩に乗せて歩いた時に、とても喜んでいたのを覚えている。

 元から控えめな性格だったけど、手のひらで寝たいという欲求は、ピノが長い間眠っていたから起きた変化ではなく、元々持ち合わせていたものなんだと思う。

 一見無意味に見える手のひらで寝るという行為も、ピノにとっては心を満たす重要な意味があるんだろう。

 N2や赤いロボットもそうだが、彼らアーティファクトの行動理念は人の個性程に違いがある。


 俺が今まで見てきたロボットは、目的や任務を遂行するために余計な自我を捨てているタイプがほとんどだった。

 捨てているというよりは、自我を持たない事が当たり前といった風潮に年々なっている。

 とある事故をきっかけに、ロボットが自我を持つことによる判断の遅れが事故に繋がった等という批判的な意見から、世の中のAI事情はそういう見方が一般的になっていった。

 それでも尚開発を続けた企業は、研究所の事故で開発が続けられなくなったり、情報漏洩による責任だとかで会社をたたむ羽目になったりといった事があって、世のAIの技術は一進一退を繰り返している。

 だから彼らアーティファクトは、少なくとも近年に開発されたものではないというのが今のところの結論だ。

 俺達が一般的に教わってきた歴史には、意図的な改変がある……。



 地面に腰を下ろし、そんなやや黒い考えを巡らせながらN2達の作業を見守っているのだが、ミニN2達の作業は案外繊細で、動きこそ激しいが、船から運び出す物を丁寧に扱っている様がよくわかる。


 その中の一つに、ジャングルで拾ってきた雛があった。

 ピノのことで頭がいっぱいで、運び出すのを忘れていた……すまんな。


 雛は元気がないわけじゃないと思うが、運ばれている最中も特に騒ぐことなく大人しくしていた。

 ミニN2達は大きな家具や割れ物等を分別しながら運び出していて、それらとは別に鉢に植えていた芋、拾った木の実、そして雛は俺の近くまで運んできてくれている。


 それにしてもこの雛……ほんと大人しいな……。

 俺が知っている鳥の雛は、なんかもっと騒がしいイメージがあるんだが……。

 目を瞑っているのかそうでないのかが分からないくらいの表情をしながら、のぼーんとN2達の解体作業を眺めているみたいだ。

 ナマケモノとはまた違った感じだが、情報認識が著しく遅いのか?

 いや、でも親鳥が死んだときはずっと鳴いてたしな……。


 しばらくしてようやく雛が首を動かし、辺りを眺め始めた。

 そしてミニN2達が近くに置いた木の実を見付けると、ゆったりした動作でそれをついばんだ。

 食べる元気があるなら大丈夫だよな……。


 そう思っていた矢先、雛の様子がおかしくなった。

 何度か木の実をついばんでいたのだが、突然鳩が歩く時のような前後の首振りを始めた。

 よく見るとくちばしに大きな木の実を詰まらせている……。

 蛙の子は蛙……土に埋まって窒息死した親鳥の雛も雛ってことだな……。


 この木の実は確か、サイバイアリモドキが育てていたブルーベリーの実だ。

 ピノが鉢に植えていたはずだが、ミニN2達が運んだ時に零れたのか?


 ピノを起こさないように、ふたをしていた手をそっと外して実をくちばしから取ろうとするが、餌を取られると勘違いした雛が首を振って抵抗してくる。

 隙をついて実を指でつまめだが、この雛、力が結構あって簡単に離してくれない。

 数秒間そのやりとりをした後、今度は逆に隙をつかれて指が滑って実を離してしまい、雛がその拍子に実を丸呑みしてしまった。


 虫が育てた実だぞ……。

 食べて大丈夫なんだろうか……。



 外が明るくなりだした頃、船の解体が終わり、今度は同時進行していた地下の掘り進めを集中的に行うらしい。

 運搬作業をしていたミニN2達も掘削作業に加わり引っ越しも大詰めだ。

 N2が代表して、ミニN2達に声をかける。


「いよぉし皆! 誰が一番ヘンテコな芋を見付けられるか勝負だ! とびこめー!」









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あとがきです。

今章の挿入話についてなのですが、今回は少し長くなりそうなので短編として掲載するか、分割して掲載するか……まとめて掲載するかを迷っています。

レイ視点以外の場面も色々書きたくて挿入してきたのですが、どの形が一番楽しんで頂けるかがまだしっくり来ておらず……。

小説家になろうの方で、視点が変わるのは分かりにくいという意見を以前頂いたので、どうしようかなーと思っている次第です。

個人的にアナザーストーリーのようなものが好きなので、入れたい気持ちがあるんですけどね。



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