75話 引っ越し!

「引っ越しって、出来んのか? そもそも宇宙船が動かせないんだぞ?」


「船が壊されるのが嫌なら、初めから壊してしまえばいいのさ♪」


 こいつノリノリで何言ってやがんだ?

 遂に、いや更に頭がおかしくなったのか?


 N2が不思議な踊りを踊りながら船に近付き、突然耐圧ガラスを外し始めた。


「ちょ!? おいおい!! 流石に説明しろ! どういうつもりだ!?」


「船を分解して、運びやすくするのさ。大丈夫、組み立てるのは慣れてるし、構造も覚えてるから」


 そう言いながら更にガラスをもう一枚外す。


「そうじゃなくて、分解しても運ぶ先がないだろ! 別のとこにまたシェルターを作っても壊されちまうんじゃないか?」


「地上にシェルターは作らない。分解して持っていく先は地下さ! それもずっと深くに!」


 はぁーなるほど……。

 その発想はなかった……。

 確かに地上より遥かに安全だし、入り口も絞っておけば防衛も容易い。


「以前の私ではここまで大掛かりなことは出来なかったけれど、今は違う。レーダーを改良し、地中の土の動きを把握すれば、黒い機械達がいくら隠れようが察知できる。私もこの船には愛着があるし、もうこれ以上危険な目には遭わせたくないんだ」


 確かに……。

 奴らがいくら隠れようが、周囲の土の動きさえ分かっていれば接近されても気付くことが出来る。


「朝までには終わらせるぞ! それ!」


 N2がそう言うと、ミニN2達がN2の右腕から飛び出し、解体作業に加わっていった。

 前までは落ちてる金属片を体のパーツとして使っていたが、今のミニN2達は本体のN2から金属を供給されているおかげで、いつでも出動できるらしい。

 見た目もN2とあまり変わらなくなってしまったので、本当にただのちっこいN2みたいだ。

 出力も上がっているが、その反面、好奇心という副産物を持ってしまったらしい。

 何か見つけると手が止まってしまうことがあるけど、気にしないでほしいとN2に言われた。

 いや、お前が気にしろよ。


 N2はミニN2を出動させるだけでなく、最近活躍気味の宙に浮く白い球を操り、ミニN2達では解体が困難な部品をレーザー照射でバラしていく。

 船内の家具とか装飾品とかもミニN2が運び出してくれるらしいので、今回は俺は現場監督の必要すらなさそうだ。


「あ、N2、ちょっと待ってくれ。ピノだけは俺が運んでやりたい」


 目覚めが宇宙船の崩壊中とか最悪だからな。

 起こさないようにゆっくり運んでやらないと。


「あぁ、そうだね。みんなー! 一時停止!」


 N2の掛け声と同時に、ミニN2達はだるまさんが転んだの如く、その瞬間の姿勢で固まった。


 何、命令出すとき口頭なの?

 というか、へんなとこだけ忠実なんだな……。


 不思議な姿勢で固まるミニN2達を踏まないように、宇宙船からピノを運び出し、N2の始動の掛け声と共に再び全員がドタバタと動き出した。


 ピノが寝ている植木鉢を腕に抱えながら、N2達の解体作業を見守る。

 それと同時進行で地下へと続く穴も掘り進めていく。

 後でエレベーター的なものを作るらしいので、今回は直下掘りだ。

 あまり深いとなると、空気とか大丈夫なんだろうか……。


「レイはイモでも撫でていてくれ!」


「うるせえよ、もっとマシなことさせろ!」


 N2のツボは相変わらず分からないが、N2があははと笑うとミニN2達も笑うという特徴が新たに判明した。

 声は出ていないが、N2よりも大げさな動作で笑っている……。

 その機能いる?


 N2達に釣られて含み笑いをした瞬間、抱えていた植木鉢の中で、もぞもぞと動く気配を感じた。


 枯れ葉で顔を半分まで隠し、頬を少し赤く染めながら、薄緑のロボットはこう言った。


「あ、あの……レイ様……近い……です……」



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