67話 シックスセンスは語らない

 赤いロボットと遭遇した日の夜。

 どうにも眠れなかった俺は、N2の様子を見ようとベットから出た。

 ピノを看病してくれているサイバイアリモドキ達は、だいたいこの時間にやって来ているようなのだが、彼らも今日は姿を見せていない。

 鉢植えの土の上で眠るようにして横たわるピノの容態はというと、体の色は依然と同様に鮮やかな緑色になり、手足も奇麗に生え揃っている。

 けれど何かきっかけが必要なのか、ピノは眠ったままだ。

 時々こうして触れてみたり、水を上げたりしている。


 外の虫がいつもと違う様子に、心のどこかで不安を抱いていたのかもしれない。

 虫の知らせなんて言葉を信じちゃいないが、この星にいるとどんなことですら何かの予兆に感じてしまう。

 いつものように虫の声に囲まれていないと、安心出来なくなってしまった自分が少し悲しい。


 けれど、そのおかげで遠くの方で聞こえる微かな地響きのような音に気付くことが出来た。

 シェルターの屋上に登り辺りを見回すと、昼間の探索したジャングルの方角が明るくなっている。

 こんな夜中にシェルターの上に登ったことなんてなかったから、今まで気づかなかっただけで、いつもあのジャングルは夜になると明るくなるのかもしれない。

 虫の声で聞こえなかっただけで、普段からこの地響きは聞こえていたのかもしれない。

 こんな星の中なんだ、いつも通りが毎日続かないのには慣れてきた。

 しかし妙な胸騒ぎが、ジャングルの方へ向かえと掻き立てる。



「N2、入るぞ」


 N2用に割り当てた小さな部屋の中には、N2が集めた星のガラクタや拾った物、読みかけの図鑑、小説なんかが散らばっている。

 その部屋の一番奥の机の上に、未だしょげたままのN2がいた。

 腹部には赤いロボットに付けられた傷が痛々しく刻まれている。

 傷口には自分で直そうとしたのか、ガムテープが不器用に貼られていた。

 ツッコむべきか、奇麗に貼り直してあげるべきかが悩みどころだ。

 ちなみに物が散らかっているのはN2が暴れたわけじゃなく、いつもの風景だ。



「どうしたレイ。こんな時間に」


「昼間に行ったジャングルの方が明るい。毎日この時間になると明るくなってるのかもしれないが、念のため確認しておきたい」


「……レイが行くなら、私も行くよ」


「ごめんな、ありがとう」



 傷心時に頼み事をするのは申し訳ないが、この星のどんな変化でも見過ごすわけにはいかない。

 N2は既に歩けるが、早急に向かうには俺の肩に乗せて走った方が早い。


 ジャングルへ向かうにつれて、コゲた匂いが次第に強まっていく。

 植物達の間を抜け、再び昼間にやってきた巨大なクレーターを見渡せる場所についた。

 予想通り、ジャングルが焼かれている。

 ここから見て右手前で1カ所、その奥に2カ所、左奥に2カ所燃え上っている箇所がある。


 このクレーターの中の植物は毎夜自然発火する……わけないよな。

 これだけの湿気だ、人が無理矢理焼こうとしても労力がいる。

 つまりはそういうことだ、奴らの……黒い機械達の仕業だ……。

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