41話 バグズ・サンドイッチ
死をもって死を制す。
ゾウムシ自体は見かけるが、さっきの赤い木の実の果汁を吸っているゾウムシは見かけなくなった。
赤い木の実を食べて死んだゾウムシは、他のゾウムシがこれ以上死んでいくのを防いだ。
種の存続のためにその種の一匹が犠牲となったんだ。
俺達がその出来事をたまたま見かけたとは考えにくい。
星中のゾウムシたちは、きっと今もあらゆる木の実を実食し生きるために試行錯誤を繰り返しているんだ。
生きるための試行は、本来長い年月をかけて行うものだ。
けれど突然出現してしまった分、今の環境に適応するためにある種の強制的な進化が求められているのかもしれない。
現在目の前にある植物もその進化の渦に巻き込まれた内の一つだ。
ピノが気味悪がったことで気付いたのだが、その植物には蟻のような小さな虫が群がっていた。
N2によるとブルーベリーの一種らしいが、周辺に生えている同じ種類よりも実が一回り大きい。
というのも、その虫達はただ群がっているだけでなく、そのブルーベリーの世話をしているように見える。
木の燃えカスを恐らく例のポイントから運び肥料として与えていたり、実った果実に口から何か液体を出して触覚で器用に塗っている。
まだ真新しい葉が落ちているのもこの虫達の仕業で、日が当たらない箇所の葉を切り落とし、細かくして肥料として再利用していた。
このブルーベリーの実がなる植物の中心あたりに虫達が団子のように密集している箇所があり、大きく育った実はその中へと運ばれていく。
多分中に偉いやつがいるんだろう。
こういった、ある意味虫との協力関係にある植物ばかりではない。
ブルーベリーの近くに生えていたのだが、虫達の出現に対して進化したのであろう、二枚貝の縁に睫毛のようなトゲを生やした植物を見付けた。
これは俺でも知っている。
ハエトリソウという植物だ。
二枚の葉にセンサーを持ち、虫が入り込むと自動で閉じる仕組みを持っている。
この植物は虫が出現する以前は原生していなかった植物だ。
ハエトリソウとは言うが、その二枚の葉で挟んだたんぱく質は何でも消化し、自らの栄養として取り込むことが出来る。
珍しく知っていた知識を披露すると、N2に誉められた。
何だが微妙な気分だ。
「この子とはお話ししても絶対解り合える気がしないです……」
虫嫌いなピノからすればそうだろうな。
ましてや食料として捕らえるために進化するなんて。
「ちなみに付け足すと、この閉じる動作は相当エネルギーを使うらしく、空振りを数回してしまうと枯れてしまうらしいよ」
そう言いながらN2は自らの手を二枚の葉の間に差し出した。
ハエトリソウはきちんと反応し、律儀にN2の手を挟む。
「分かってるなら止めましょうよ!」
ピノが俺の気持ちを代弁してくれた。
「実験に多少の犠牲は付き物さ♪」
でも確かに、この星で生き抜くためにはそんな生易しいことは言ってられない。
生きるとはそう言うことなんだ。
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