40話 プロセス・プログレス


 N2は新たに溶接用のロボの開発を提案した。

 ミニN2達のコア部分になっているICチップと同じ要領で作るらしいのだが、金属同士をくっつける程の高出力を必要とするので、チップ自体のサイズは大きめになるとのこと。

 ミニN2達と違うのはチップの大きさだけでなく、製作に使う金属もある程度の出力を出すためには黒い生命体の部品を使う必要があるとのことだった。

 船外で使う予定はないし、出来るだけ部品の消費は抑えたい。


 そのことを踏まえ、最低限の部品の消費で鉤爪を3本持つアーム型のロボットが出来上がった。

 N2自身が溶接をするよりも多少時間がかかるが、初めに指示を出しておけば後は自動で溶接を完成させてくれるらしい。

 宇宙船の装置ひとつ直すための分の部品を使ってしまったが、N2の手が空くなら安いもんだ。


 そんなわけで、今度も3人で船外の探索に出かけた。

 今回の目的は蟻の発見ポイントとその周辺の調査だ。

 宇宙船のレーダーとN2はリアルタイムで通信していて、レーダーに何か反応があれば外にいても気付くことができる。

 ただし稼働中は常に電力を消費するので、予備電源の残りには気を使わなくてはならなくなった。

 今のところ残りの予備電源だけでも離陸は可能だが、滞在が長引くと近い将来足りなくなると思う。

 念のため電力の供給源も確保しておきたいところだ。



 再び船外へ出てまず驚いたことは、植物自体にも変化があったことだ。

 植物の種類が見るからに増えている。

 前回の出現時の植物の種類は、小さな赤い木の実を付けたものがほとんどで、大きさも俺の身長と同程度だった。

 しかし目の前の光景はそれとは様変わりしていて、果実こそつけていないが木と呼べる程の植物が育ちつつある。

 植物が更に成長した地域は炎を出す黒い生命体を破壊したポイントだけかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。


 そのポイントに向かう途中不思議な虫を発見した。

 細長い嘴のようなものが頭部に着いたトックリ型の虫だ。


 蟻以外にも出現しているとは考えていたが、やはりいた。

 トックリ型の虫はその嘴を赤い木の実に突き刺し、中の果汁を飲んでいる。


「これはゾウムシの仲間だね。主にこうやって果汁を吸って生きているらしい。中にはキノコを食べる種類もいたり、甲虫の中での種類の多さは群を抜いてるんだって」


 ほほう、これがゾウムシか。

 見た目が象っぽいからって安直なネーミングだよな。


「図鑑には何種類って書いてあったんだ?」


「6万」


 6万種!?

 よくそんな見付けたな……。


「ゾウムシは危険が迫ると死んだふりをするんだって。見てて!」


 お食事中のゾウムシにN2がツンと触れると、コロリと地面に落下した。

 あはは、と笑うN2。

 ピノはいつの間にか後ろの木に隠れている。

 しかし、落下したゾウムシは一向に動く気配がない。


「ほんとに死んだんじゃないか? N2が虐めるから」


「わ、私は殺すつもりなど……!」


「容疑者はだいたいそう言うか、だれでもよかったって言うんだよ」


「それ何の話!?」



 結論から言うと、ゾウムシは本当に死んでいた。

 N2の解析によると木の実の成分がゾウムシに合わなかったらしい。

 木の実自体に毒はない。

 しかし、それは人間にとっての話だ。

 以降その木の実に集るゾウムシは見かけなくなった。

 虫も決死の覚悟で成長しているのかもしれない。

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