第2話 カオス、カオス、カオス

 さてさて、やってきましたよ、昼休み! 英語の時間は「やらかしちゃった」が、うむ! 過ぎた事を悔いても仕方ない。今日は、スペシャルパンが食えるんだ。一週間に一度、出るかどうかも分からない幻のパン。本当は、パン屋が材料費をケチっているだけだけど。


 学校のみんなは、そのパンをとても楽しみにしている。世の中には、「それ」以外にも美味いもんがあるっていうのに。お陰でその日は、戦争だ。「制服」って軍服を着た兵士の。って、制服は元々「軍服」か。男子の学生服しかり。女子のセーラー服しかり。俺達はその軍服を着崩したり、若しくは弄ったりして、それぞれの個性を楽しんでいる。

 

 俺は、学校の制服を着崩さないけど。アレは、センスの良い奴が楽しむもんだ。俺は、購買の列に並んだ。「今夜の獲物は、どうたらこうたら」言っている男子の後ろに。そいつは、俺の気配に気づかなかった。

 俺は、自分の順番を待ちつづけた。俺の順番は、すぐにやってきた。本当ならもっと掛かるハズなのに。俺が前の男子から視線を逸らした瞬間、「何者か」が俺以外の全員を吹き飛ばしてしまったんだ。

 

 俺は、その「何物か」に驚いた。だって、「姿」が見えねぇんだもん。人の気配は、確かに感じるのに。コイツは、ちょっとしたHorrorだね。まあ、スペシャルパンが買えたから良いけどさ。俺は自分の教室に戻って、そのスペシャルパンを頬張った。もぐもぐ、ゴクン。パクッ、もぐもぐ。ゴクン。


「ごちそうさん」

 

 俺は教室の中から出て、学校の中をぶらついた。昼休みの時間を有意義に過ごすために。昼休みは、学校の中で一番長い休み時間だ。一時間目の休み時間や、学校の放課後とは違う。のんびりとした時間。その時間を「運動」に費やすのは、色んな意味で嫌だろう? 学校の校庭でサッカーしたり、体育館の中でバスケしたりするならまだしも、部室の中でイチャイチャしたり、空き教室の中でイチャイチャしたり、校舎の裏でイチャイチャしたりするのは……って。


「あ?」


 テメェには、「そんな相手はいねぇだろ?」って? そんな事は、分かっている。ただちょっと、言ってみただけだ。もしもの場合を考えて。ココは一応、進学校だからな。偏差値の方はそれなりだけど、通っている奴らは決してバカじゃない。常識の「じょ」くらいは、知っている。


 わざわざ退学になるような事は、しないさ。先月は「三人ほど」やらかして、彼女と一緒に退学になった奴らがいたけれど。俺は、自分の教室に戻った。俺が体育館の角を曲がった時、「うわっ」と。大人のドラマばりに修羅場っていた三人がいたので、自分の教室に仕方なく戻る事にしたんだ。

 

 俺は自分の席に座ると、憂鬱な顔で机の上に突っ伏した。


「疲れたぁ」


 俺は、教室の掛け時計に目をやった。「五時間目が始まるまで、あと何分か?」と。俺はその残り時間を確かめると、教室の掛け時計から視線を逸らして、机の上にまた突っ伏した。


 はあ、五時間目の授業か。五時間目の授業は、選択授業だった。生徒達が各々の選択授業に分かれて。ココの教室も、数学の選択教室に使われる。いかにも「前科持ち」って先生が、本当は元刑事だけどね。

 たまに「ガチの殺人事件」を解決したりするけど。先生の推理力は、三角定規の角よりも鋭かった(ちなみに「先程の三人」を見つけたのも、他ならぬこの先生である)。

 

 俺は、数学の教科書を開いた。教科書の内容は……まあ、難しくはねぇよ? 数学は、苦手じゃねぇし。関数とか、すげぇ便利じゃん? 普通の生活じゃ、ほとんど使わねぇけど。理系の世界では、必須じゃねぇ? 関数は、色んな所に使われているから。「関数を制する者は、理数系を制する」と言っても、過言じゃねぇだろう。数学は、理数系の父ちゃんだ。

 

 俺は、教科書の問題を解いた。授業の先生が「これをやれ」と言ったんで。俺は教科書の問題を解き終えると、教室の黒板に視線を戻して、問題の答えを一つ一つ確かめていった。

 正解。

 正解。

 正解。

 正解。

 惜しい、不正解。

 

 俺は、自分の答えを直した。「これさえ当たっていりゃ、全問正解だったのに」と。俺は先生の授業に意識を戻し、んんん? アレは一体、何をやっているんでしょうかね? プラネタリウムのリアル版みてぇな空間が……なるほど。

 

 アイツ、机の上に「宇宙」を作っていやがる。何だか分かんない数式を書き連ねてさ、それを宇宙の構成材料にしているんだ。カオス理論も真っ青になるくらいに。アイツは、文字通りの天才だな。前々から「すげぇ奴だ」と思っていたけど。

 

 隣の女子なんか、ミニタイムマシンっぽいのを作っているし。アイツらがいりゃ、日本は安心だな。どこら辺が安心なのかは、イマイチ分けねぇけど。とにかく「すげぇモノ」は、すげぇ。凡人の俺には、真似できねぇよ。

 

 俺は、数学の授業に意識を戻した。アイツらの才能に圧倒されて。本当は、先生の睨みに怯んだだけだけどさ。俺は先生の怒りを宥めると、真面目な顔で数学の授業を受けつづけた。

 

 数学の授業終了。続いて、六時間目の授業に移る。六時間目の授業は、体育館でのバスケだ。五分間の休み時間も忘れてしまう程の、実に熱くておもしろいスポーツ。運動部のみなさんが、すげぇイキイキしているよ。

 ギャラリーの女子達に(って言うか、お前らも体育だよね?)良い格好を見せようとしてさ。いつも以上に興奮していらっしゃる。それぞれの鼻息を荒くしてさ。それじゃ、ギャラリーのみんなにドン引きされますよ?

 

 俺は、近くのグループに入った。


「よろしく」


「あ、うん、こちらこそ」


「よろしく」


「よろしく!」


「……よろしく」


 俺達は、体育館のステージ側に集まった。先生曰く、「試合の順番」を決めるために。試合の順番は、端的に言うと「あみだくじ」だ。チームのリーダーが紐を引いて、その順番を決めるアレ。実にシンプルイズベスト。ちなみに俺達のリーダーが引いたのは、今回の一試合目でした。

 

 俺達は、バスケのトーナメント表を見た。


「ついていないな」


「うん」


「ついていない」


「……相手のチームが、アレじゃ」


「でも、ぜってぇ勝つ!」


 一人だけやる気満々です。他の奴らが「うわぁ」と引いちゃうくらいに。俺も思わず、「はぁ」と項垂れちゃったよ。俺は暗い顔で、相手チームの男子達を見た。相手チームの男子達は、何なんだよ、アレ? 言葉通りのドリームチームじゃねぇか。色んなジャンルの「バスケプレイヤー」を集めて。

 全方向狙い撃ちにも程がある。ギャラリーの女子達も、くっ。止めよう。描写するだけ虚しくなる。ここは、無心に徹するんだ。「俺は、名も無きモブの一人である」と。本当は、正真正銘の主人公なのにね? 宮本隆二みやもとりゅうじって、名前もあるのに。この扱いは、ガチで酷すぎる。


「はぁ」


 俺は、コートの中央に歩み寄った。「仕方ない」


 試合には、どうせ勝てないんだ。俺達のチームがどんなに「ユニークだ」と言っても、スペシャルチームにはどう頑張っても敵わない。蟻が恐竜には、敵わないが如く。モブは、「永遠の引き立て役」なのである。

 

 俺は、正面のスペシャルチームを見据えた。


「モブの意地を見せてやるよ」

 

 俺は……いや、「俺達」は、目の前の試合に全力をぶつけた。その結果は、うううっ。みなさん御察しの通り、見事なまでにボコボコです。手も足も出ませんでした。周りのギャラリーからは、女子達の黄色い声が聞こえてくる。正直、すげぇ羨ましい。両目の汗がちょちょ切れる程。


「ううう」


 俺の人生、誰かと取っ替えられねぇかな? 前に話題になった「体が入れ替わる」ってヤツ。俺のクラスにも、そういう奴らが一組いるし。


「でも」


 色々と面倒だろうな。ただでさえ環境が違うのに、見知らぬ男女が入れ替わるなんて。俺なら、うん。やっぱり、今の生活が最高だね。今の生活に「満足しているか?」と訊かれりゃ微妙だけど。俺は体育館の隅に引っ込んで、残りの試合を「……」と見つづけた。残りの試合終了。加えて六時間目の授業も終了。


 俺達は、自分の教室に帰った。


 掃除の時間は、かったるい。廊下のゴミを集めるのはもちろん、そいつをチリトリにぶっ込む作業も。ああ、何もかもが面倒くさい。自分の部屋は、綺麗にするくせにさ。公共の施設はどうも、手を抜いてしまう。本当は、自分の家以上に綺麗にしなくちゃいけないのにね。


 俺は所定の場所に掃除用具を戻すと、同じ班の奴らと連れ立って教室に戻った。教室の掃除は、終わっている。生徒達も、自分の席に戻っている。教室の中で立っているのは、後ろの戸から入ってきた俺達だけだった。俺達は、自分の席に座った。

 

 俺は、教室の前に目をやった。教室の前には、俺達の先生が立っている。俺達の顔を見渡すように。先生は「帰りのHR」を終わらせると、「自称世界の支配者?」と連れ立って(何かやらかしたのか?)、教室の中から出て行った。

 

 俺は、学校の美術室に向かって歩きだした。周りの奴らも、「それぞれの属性」に合わせて移動を開始する。正当な部活は、正当な活動場所に。奇妙な部活は、奇妙な活動場所に。俺の前を歩く男子生徒は……確か、「生徒会」だっけ? 学校一の美少女がいる、テンプレも真っ青な生徒会。

 

 生徒会長は、その女子生徒だったか? 副会長は、金持ちボンボンのオレ様系だけど。二人の仲は、正直に言ってよろしくない。ツンドラとオレ様の組み合わせじゃ、「衝突するな」って言う方が無理な話だ。どっちとも、「普通の相手」としか付き合えないし。属性持ちの彼氏or彼女役は、それだけで主人公の相手役なんだ。

 

 読者の「恋愛欲求?(勝手に作りました)」を満たす、理想的な相手役こいびと。そいつらは、どうしてあんなに強いんだろうね? 市場のシェアを、「シェア」つぅうのもおかしいか。その手の市場をすっかり押さえていやがる。恋愛モノを出せば、「とりあえずはハズレねぇ」という風に。

 恋愛そのものをビジネスにしているんだ。恋愛をテーマにした物語は勿論、それを現実に置き換えたリアリスト達も。みんな、恋愛の力に頼り切っている。「恋愛こそが、人生のすべてである」と。心の底から、そう信じて疑わないんだ。「恋愛は、戦争すらも止める最終兵器」と。

 

 俺は……たぶん、その考えが「嫌いじゃない」んだろう。朝の時にも思ったようにね。それを拒む事は、できないんだ。自分が「人間」である以上、「恋愛こい」の存在からは決して逃げられない。でも……。物には、限度がある。恋愛こいの存在は、確かに大事だけど。だからって!


「コレは、流石に酷いんじゃねぇか?」


 俺は、自分の周りを見渡した。見渡す限りの人、人、人、つまりはリア充の大嵐。ありとあらゆる組み合わせが、男×女、男(単数)×女(複数)、男(複数)×女(単数)、etc.が、俺の視界に襲いかかってきたんだ。向こうは、俺の視線にまったく気づいていないけど。

 

 俺は、美術部の部室に向かった。今の光景から逃げるように。俺は部室の中に入ると、暗い顔で周りの部員達に挨拶した。

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