最後の三分間 緑

エリー.ファー

最後の三分間 緑

 最後の三分間というと、僕にとってはすべてが新鮮だった。

 同じような感覚に陥る人もいるだろう。

 何せ、どんなに最後というものを味わってきたとして、その三分間、つまりは、三分前の状態で、今、三分前だ、と認識することは間違いなく少ないからだ。終わった後に、確か、あの瞬間が三分前くらいだったのではないか、と思うにとどまると思う。

 大切なのは、だ。

 その三分後には終わりとなる、ということを認識したうえで残りの三分かをどう使うか、ということに他ならない。

 何せ、そこから先の三分間の中で組み立てられる予定というものは確かに大切であるし、それこそ、結果を大きく変える場合もあるのだ。

 最後が目に見えているからこそ、そこで、それが本当の意味での終わりにするのか。

 それとも。

 何かの始まりに変えるのか。

 それはその今が三分と気づいた後から始まる。

 一瞬一瞬の積み重ねの中で形作られる、一つの人生の破片そのものなのだ。

 僕の手元に猫がいる。

 可愛い猫だ。

 最後の三分間をこの猫と共に過ごすということに、いささか疑問もなければ、何の反論も出てこない。

 僕は猫を見つめる。


 僕は村一番の働きものだ。

 東に葡萄の収穫が遅れているものがいたら手伝いに行き。

 西に農具が壊れたものがいたら貸しに行き。

 北にお腹を空かせた子供がいればそこにパンを持っていき。

 南に誰にも看取られずに亡くなった人がいればその墓をたてにいく。

 等々。

 基本的にこういうことをしながら一日を終えている。

 そんなことだったから、村長に働きすぎだと言われて家の中で休んでいなさいと言われた。

 僕以外の村人がなんと僕の家の畑まで綺麗にやってくれる。こんなにもありがたいことはない。

 ありがたいことはないのだけれど、暇で暇でしょうがない。

 猫を腕の中に入れて、一日が過ぎ去るのを待っていると、眠るのも暇すぎてできず、かといって何もしないのも暇すぎてできない。暇というものが何なのかよく分かっていないので、最早、暇という言葉の使い方も分からない。

 後、三分。

 後、三分で一日が終わる。

 そうすれば、また明日から働くことができる。

 村長は気遣っているのだろうが、これは最早拷問以外のなにものでもない。暇すぎて死ぬくらいなら、働きすぎて死んだ方がどれだけましだろう。

 そう思っていると。

 猫が口を開いた。

「貴方様は何故、自分がこうして家の中にいるか分かりますか。」

「僕は分からないな。」

「あなたがこの村の人の仕事をうばってしまったせいで、この村の人間が怠惰になってしまったからですよ。」

「そんな馬鹿な。みんな一生懸命じゃないか。」

「いいえ。そんなことはありません。貴方がどこかで手伝うだろうと思って皆、手を抜いているんです。そのせいで、この村の生産量は著しく低下しています。」

「だったら、僕がその分働けばいい。」

「そういう事じゃないんです。それでは何の解決にもならない。また貴方が頑張って、それでまた怠惰になって。それではこの悪循環から抜けられません。」

「だったら、どうすればいい。」

「必死に働くのではなく、上手に休める人間になればいいのです。」

「しかし。」

「そのことが、明日に代わるまでのこの最後の三分間で分からなかったら、貴方は明日もこの部屋の中から出ないように、と言われてしまいますよ。」

 僕は考える。

 そして。

 気が付くと朝になっていた。

 夢だったのか、とも思ったが猫の言うことは妙に納得できた。

 そこから僕はなるべく自分の分を必死にやるようになる。

 気が付くと、あいつ最近手伝ってくれないと、村人たちから無視されるようになる。

 家の前を通った猫がこちらを見つめながらよく鳴いている。

「所詮、猫の言うことですよ、真に受けちゃあだめですって。」

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