最後の三分間 橙
エリー.ファー
最後の三分間 橙
最後の三分間というと、僕にとってはすべてが新鮮だった。
同じような感覚に陥る人もいるだろう。
何せ、どんなに最後というものを味わってきたとして、その三分間、つまりは、三分前の状態で、今、三分前だ、と認識することは間違いなく少ないからだ。終わった後に、確か、あの瞬間が三分前くらいだったのではないか、と思うにとどまると思う。
大切なのは、だ。
その三分後には終わりとなる、ということを認識したうえで残りの三分かをどう使うか、ということに他ならない。
何せ、そこから先の三分間の中で組み立てられる予定というものは確かに大切であるし、それこそ、結果を大きく変える場合もあるのだ。
最後が目に見えているからこそ、そこで、それが本当の意味での終わりにするのか。
それとも。
何かの始まりに変えるのか。
それはその今が三分と気づいた後から始まる。
一瞬一瞬の積み重ねの中で形作られる、一つの人生の破片そのものなのだ。
僕の手元に猫がいる。
可愛い猫だ。
最後の三分間をこの猫と共に過ごすということに、いささか疑問もなければ、何の反論も出てこない。
僕は猫を見つめる。
「貴様のような子供が吾輩に命令を下すでない。」
「黙っていろ、化け猫風情が。」
僕は猫を睨み、そのままあくびを一つした。
このままこの都会で、凶悪な妖怪達が暴れまわるのを無視することはできない。どうにかして、この化け猫と僕とで力を合わせる必要がある。
妖怪たちの妖気が少しずつ充満していくのが分かる。このままでは世界は終わる。
残り。
三分。
それだけは避けなければならない。
「言い残したことはあるか小僧。」
「ない。」
「これから死ぬ可能性もあるのだぞ。」
「生きてかえるつもりだ。言い残したくともそれは無理というものだろう。」
「減らず口を。」
僕は呪文を唱えながら周りに気を配る。今現在、妖怪たちはまだ姿を現してはいない。何も問題が起きていない、という方がかなりおかしい。
それこそこれだけの妖気があって何も起きていないのは、何か見落としているとしか言いようがない。
その瞬間、僕と猫は吹き飛ばされ、空中で受け身を取ると周りを見渡した。
「化け猫、今のはなんだ。」
「分からん。だが、少なくとも妖怪の仕業であることは間違いない。」
「姿の見えないものを相手にしろ、というのか。」
「無茶苦茶だな。」
「どうにかならないのか。」
「化け猫とて変身することはできるがな。無色透明というのは無理というもの。」
「僕に、透明な妖怪をあぶりだすための妖術などない。所詮、人間ということなのか。」
「下らん。」
化け猫は巨大化し、僕を鼻先で突くと、そのまま背中に乗るように促した。
僕は飛び乗ってあたりを見回す。
「我が、雷雨霧霧猫座衛門を下しておきながら、怖気着いたが小童が。」
「そんなわけないだろう。」
「では、いかがする。」
「そう、そうだ。確かこのような透明になる妖術を使う妖怪たちを相手にする時は、霧の術を使うのだ。」
「それはいかに。」
「相手にも相手の姿が見えないという、同じ状況を作り出し、相手が一方的に有利な状況を五分と五分に戻す。どうだろう化け猫。」
「上々だ。行くぞ小童。」
「あぁ、もちろんだ化け猫よ。」
暗雲立ち込める都会の空気の中に僕と化け猫は飛び込んでいく。
最後の三分間 橙 エリー.ファー @eri-far-
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