第15章

放課後の美術室。天宮は油絵を描きなぐっていた。


天空から光が注ぐ絵だが、すでに11枚も描いている。


ただ、11枚目の絵は少し違っていた。


天空の雲の隙間から地上へ光が注いでいるのは同じだが、


地上の風景が違っていた。




地上には天災が降りかかったかのように、


瓦礫と崩壊した街が描かれているのだ。




天宮は満たされたかのような笑顔を見せた。


もう少し力を得れば、残り2箇所に刻印を刻める。


すでにその力を得る方法は考えてある。




そして、全ての刻印が刻まれた時、ハルマゲドンが始まるのだ。


私が先陣を切れば、他の天使たちも追従してくるはずだ。




天宮は立ち上がると、白衣のポケットに両手を滑り込ませると、


勝ち誇ったようにつぶやいた。




「アザゼル、お前の負けだ」






その頃、江野は東海北陸自動車道をバイクで北上していた。


バイクはヤマハYZF-R1。


また手ごろな場所から拝借したものだ。


もともとは青と白のツートンカラーだが、


江野が乗ると、車体もナンンバーも漆黒に染められる。




江野の乗るマシンは、150キロを超えるスピードで疾走していく。


時速80キロ以上出している20トントラックが何台も走っているが、


江野には停まって見える。




エンジン回転数は18000を超える。ギアをトップに叩きこむ。


998cc水冷4ストローク直列4気筒・4バルブエンジンのマシンは


唸うなりを上げて、加速していった。


江野の駆るYZF-R1は、巨体のトラックの


合間を駆け抜けるように抜き去っていく。




目指すは白川郷。人が手を合わせたような茅葺かやぶき屋根の


特徴を持った民家の並んでいる。これを合掌造りと呼ぶ。


1995年に、ユネスコの世界遺産に選定された上白川村があるところだ。




空には夕闇が迫っていた。走る他の乗用車や大型トラックは次々と


ヘッドライトを点していく。


だが、江野はライトも点けず猛スピードで


走る。彼に光は必要ない。闇はいつも彼の側にある。




白川郷のインターチェンジにYZF-R1を滑らせる。


料金所もほとんどスピードを落とさず、疾風のごとくスルーする。


江野は白川八幡神社に向かった。




地上には地の気脈というものがある。


たとえば地球をひとつの意思を持つ生命体と考えると、


そこにはその意思の血管ともいうべきものがあるのだ。


その気脈に干渉することによって、


この星の様々な自然活動に影響を与える。


そして、気脈にはターミナルのように


複数の気脈が重なり合う場所がある。その場所で気脈に干渉すれば、


この星の惑星活動を操作することができるのだ。


その一つが、白川八幡神社だった。




江野はマシンを神社の正面に停車させた。


エンジンを切ってYZF-R1から降りる。


江野は歩いて白川八幡神社の敷地内に入った。江野の他に人気は無い。


神社の本堂に向かい合うと、両の手のひらを地面に向ける。


江野の全身から黒いオーラが立ち込める。


その黒いオーラは、宵闇に染まりつつある空に溶け込んでいった。




江野は気脈を探る。彼のオーラが一際大きくなった。




気脈に干渉できるのは、人智を超えた存在でなければならない。


そしてその気脈を操作する力は、光と闇のエネルギーだ。


江野の両手から漆黒の稲妻が迸る。彼の表情から苦悶しているのが、


読み取れる。息も荒い。彼の闇の力は枯渇しつつあった。




江野の手から黒い稲妻が地面に吸い込まれていく。


江野の意識が遠のいていく。


彼はその場に崩れるように、倒れた・・・・・・。

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