第7章

土曜日の午後、授業は午前中で終わり、光翼学園高校の校内には、

生徒も姿は、ほとんど見られない。部活で残っている生徒がいるくらいだった。




江野は3階まの美術室の前に立っていた。


扉は鍵はかけられてはいないが、江野にはそれを開けることはできなかった。




(こんなもので僕を閉じらせると思ったのか)


江野は少し相手を見くびっている相手に呆れていた。


だが、無表情で感情は表には出さない。




江野は右手を差し出した。そのてに赤黒い煙りのようなものが立ち昇る。


その右手を美術室の扉にかざす。扉は自動ドアのようにすべり開いた。




江野は美術室に足を一歩踏み入れた。


室内にはおびただしい石膏像とイーゼルが整然と並べられている。


江野は周囲を見渡した。ひとつの石膏像に目が留まる。


その石膏像を横にずらすと、日本地図が現れる。


そのところどころに赤と青のプッシュピンが射されている。


江野は慄然とした。天宮のやろうとしていることが、やっとわかった。


全ての場所に順序良く力を注げば・・・。


石膏像を元の位置に正確に戻すと、江野は美術室を出ようとする。




林田郁美は新聞部だ。輪転機は3階にある。


美術室の2つ隣だ。足早に階段を駆け上がる。




そこで美術室を出ようとする江野を見かけた。思わず足が止まる。


柱の影に本能的に隠れた。江野先生が美術室に何の用だろう?


郁美はいぶかしんだ。江野の様子をそっと観察する。




江野は再び右手に赤黒い煙路のようなものを立ち昇らせた。


美術室の扉はスーっと閉まっていく。




アッっと郁美は心で叫んだ。


今、目の前で起きた現象が信じられないでいる。

体に力が入らず、その場に立ちすくむ。




「そこにいるのは林田君だろ?」


思わず郁美は悲鳴を上げそうになった。


だが、江野の声音に恐怖は感じなかった。




「は・・・はい」


郁美は江野の言葉に、意思とは反対に返事をしていた。


その直後、しまったという感情もおきてしまう。


だが、郁美は柱の影から、江野に姿を見せた。


正面から江野の顔を見られなかった。




「キミは光の魂の持ち主だ。僕に近寄らないようにしなさい」


江野は郁美の顔を見ながら言った。

相変わらず、江野の顔には何の感情も

見られないが、その言葉にはわずかな優しさが

感じられたような気がした。




天宮は伊勢の大王崎にいた。


打ち寄せる幾重もの波が、岸壁を打ち据える。


そのはじけた海水があ、天宮の顔にも降りかかる。




天宮は両手を重ね合わせ、足元に手のひらを向ける。彼の全身に力がみなぎる。


天宮の両目は白く染まり、顔には赤い血管がレリーフのように


浮き彫りにされる。




天宮の手が光った。それは小さな太陽ともいえる荘厳な輝きを見せた。


彼の両手から発せられた光は、大王崎の岩場に吸い込まれていく。




その状態が数十秒続いたが、ふいにその光が消えた。


天宮はその場にひざまずく。


そして彼の両目も、人間のそれと同じように戻っていった。




しばらくすると天宮は立ち上がり、達成感に満ちた表情でつぶやいた。




「あと2箇所だ・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る