月輝く夜に、あなたと

山吹K

第1話

 その日は、いつもより月明かりが輝いていた。

バイトを終え、いつものようにソファーに寝転がりスマホ片手にテレビを見ていた。

世の中物騒だなー、なんて思いながら最近話題の殺人犯についてのニュースを見ているとバイブ音が響く。

誰だろうと思い、スマホを見ると彼氏である和人から。

こんな時間に電話をかけてきたことはないのにどうしたのかなと思いながら電話にでた。


「もしもし」

「あ、でた。

こんばんは」

「え……」


和人とは違う声。

和人よりも少し声が高く、男の人だけど綺麗な声だった。


「どちら様……?」

「あぁ、ごめんね。

今外を歩いてたんだけどね、彼刺されちゃってて」

「……え。

いや、何言ってるんですか……?」


自分の声が震えているのがわかった。

手から滑り落ちそうになったスマホを落とさないように気をつけながら耳を傾けた。


「まあ、信じられるわけないよね。

僕もびっくりしたよ。

誰か倒れてると思ったら刺されちゃってるんだもん。

それで今から来れない?

救急車は呼んでおいたからさ」

「い、行きます

場所は!?」

「四丁目のコンビニを……」


話を聞きながら四丁目の方へ走った。

ここから四丁目まであまり遠くない。

こんなに走るのは何年ぶりか、と思うほどがむしゃらに走った。

心の中では苦しさよりもただ和人が無事かどうかだけを考えていた。

言われた方向に行くと救急車に運ばれる人と若い男の人が立っていた。


「和人!!」

「知り合いの方ですか?」

「私の恋人なんです!」

「わかりました、彼の傍にいてあげてください」


救命士さんの話をしてから急いで乗り込んだ。

洋服には血が滲み、いつもより白くなった和人の顔を見てただ事ではないことを改めて実感する。


「和人、無事だよね。

いつもみたいにまた笑ってくれるよね……?」


返事はなかった。

血のついた和人の手を握り、ただ祈るしかできない自分に少しの苛立ちを感じながら和人の顔をずっと見つめていた。

車の中には機械音と救命士さんが必死に応急処置をしている音が響く。


「お願い、目を覚まして……」


そう独り言を呟く。

どのくらい経ったのか、最寄りの病院に到着したらしい。

医師たちの慌てた声を聞きながら和人を見送り、私は1人手術室の前で立ち尽くしていた。


「彼女さん」

「あなたは……」


どこか儚げな雰囲気のある男の人だった。

暗くてわからなかったけど、黒い髪に猫のような目。

引き込まれそうなほど赤い瞳に私は目を逸らせなくなる。


「もしかして、さっきの電話はあなたですか?」

「そうだよ、僕が連絡した」

「さっきはお礼もできなくてすみませんでした」

「いや、大丈夫だよ。

それより今は彼のことだけを考えてあげなよ」

「……はい」


どのくらい時間がたっただろうか。

オペ室の『手術中』とかかれていたランプは消え、中から医師がでてきた。

その表情は暗く下を向いていた。

まさか、和人は……。


「……私達も手を尽くしました。

残念ですが……」

「うそ……でしょ。

嘘って言ってよ。

なんで……なんで和人なの!?」


私はただ泣き叫ぶことしかできなかった。

どうして和人なんだろう。

和人が殺される必要なんてあったのか。

そんなことが頭の中で回っていた。


「落ち着いて」


若い男の人に椅子に座らされ、上着を肩に掛けられた。


「落ち着いてなんかいられない。

あなたにとって他人でも、私にとっては大事な人なの。

彼がいなくなったら私……」

「知ってるよ。

でも彼はそんなこと望んでなんかいないでしょ」

「あなたに和人の何がわかるの?」

「わかるよ、同じ男だ。

それに僕はずっと彼を見てきたから」

「知り合いなの?」


驚き、少し涙が止まった。

昔からの友達だったのだろうか。


「いや、知り合いとまではいかないよ。

僕が一方的に知っているだけだ」

「どんな関係?」

「彼を……次のターゲットとして狙っていた」

「ターゲット……?」

「僕は彼を殺そうとしていたから」

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