第66話 出た
やあ、おいらです。
おいらには霊感が全くありません。えっ、前にトレッサの店中の人を呪って、恐怖の坩堝に陥れたじゃないかですって? だから、あれは心理的な何かだと思うので、詳しくはズラの矢幡洋先生に聞いてください。それでも、スピリチュアルだと言い張るなら江原啓之にでも質問すれば? 高くつくと思うけど。
そうではなくて、おいらは霊感が全くないんですけど、今住んでいる部屋に何かがいることはさすがにわかりましたよ。
ラップ音はもちろん、玄関や雨戸を強く叩く音。ものの落ちる音、そして、ねこみたいな生物がそーっと歩く気配。ずっと気にしていなかったんですけど、昨日あたりは調子に乗りすぎている感じがして、さすがのおいらも頭にきました。
なので、日頃は玄関の靴箱の上にお仲間たちと鎮座をされております不動明王に御出座いただき、禍々しいものを退治していただけるようにお願いしました。この不動明王はおいらがキチガイの時、「ご本尊が欲しい」とAmazonで一万五千円出して迎え入れた木製の立像です。迦楼羅炎を入れても三十センチもない小柄なものです。玄関の方の護りは盧遮那仏(釈迦如来)、大日如来と、お地蔵さまにお任せして不動明王をおいらのべッドの横にあるラックの頭側にいらしていただきました。ああ、気がついちゃいました? 実は釈迦如来と大日如来の方が、不動明王より、仏様としてのランクが二つか三つくらい上なんですよね。お地蔵さんも実は地蔵菩薩というのが正式名称で、不動明王より上位なんですけど、おいらの本尊、守り仏はあくまでも不動明王なのです。小さい時から、そう教えられてきたので、それほど宗教に詳しくないおいらも不動明王だけは、篤く信仰しているのです。
さて、本番です。所定の位置に不動明王にお越しいただき『不動明王真言』という、簡単だけど、サンスクリット語だから意味不明なお経を口にします。実はもっと長いバージョンもあるのですが、覚えられませんでした。本当だったら清めの塩とかお神酒とかがあればいいんですが、おいらは料理をしないし、お酒も飲まないから、飲まず食わずで頑張ってもらうことになりました。
で、電気を消して就寝。
ああ、結果を言いますと、効果てきめん。全く音がなくなり、部屋はシーンとなりました。静かすぎて怖いくらいです。不動明王の力がこんなに強いとは、おいら、びっくりしました。さすが、京都の仏師が作った不動明王だ。そこらへんのフィギュアみたいなのとは力が違うとはねえ。おいらの部屋にいた、何かは不動明王により、強引に冥土へ言ったのです。成仏してね。
では。
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