第57話 ぺこり亭ぺこりの凡作落語会

(出囃子)Mr.Children『HANABI』


 やあ、おいらでございます。沢山のお運びありがとう存じます。出囃子を聴いて「コードブルーか?」っておっしゃったお客様、おいら山Pじゃございませんよ。PはPでも、ぺこりのPでございます。ああ、ここで笑っとかないと、もう笑うところはございませんよってね。


 さて「衣食足りて礼節を知る」と申しますが、ガツガツ働き、他人を蹴落としてご重役になったり、はたまたトトビッグで六億円なんぞ当ててしまって、にわか成金になりますってえと、急に自分をお高く見せようと背伸びをしてしまうのは人間の浅はかさと言いますか、これを心理学的に申しますと……ああ、その部分の講義の日に熱出して学校を休んでおりました。はい、おいらにはわかりません。まあ、とにかく、何かしら、ノーブルなことに手を出すのは自明の理でございますね。


 で、手っ取り早いのは書画骨董の類のコレクションでございます。インターネットやらなんやらで、俄仕込みの知識を頭に詰め込んで、おっと危ない。知識が耳の穴から溢れておりますよ、旦那。

 さて、とりあえずは銀座の画廊に行ったり、骨董通りで中島誠之助先生のお店に寄ったりしたりいたしますが、旦那はさっぱりわからない。そりゃそうだ。この道は奥が深いのです。長い年月をかけてじっくりと本物を観て、目を肥やさなくてはいけません。美術品の歴史は反面、贋作の歴史と重なるものでございます。かの人気長寿番組『開運! なんでも鑑定団』をたまにはご覧になったらいかがでしょうか? 「これは、我が家に伝わる、景德鎮のツボですよ。一千万は下りません」と自信満々に言い張るジジイの鑑定額は千円。またまたご登場の中島誠之助先生が、「これはねえ。偽物ですね。ツボの模様は印刷。明治ごろに作られたんじゃないでしょうか?」とかおっしゃって、ジジイは地に伏すわけです。一方で、「これ、子どもの頃におもちゃ屋さんで貰った、ロボコンのロビンちゃんの人形なんですけど……。ええ、一応、箱もあります」なんて汗をかきかき、話す中年サラリーマン。なんと鑑定額は二百万円。北原照之さんが「いやあ、見事です。これ、メーカーのノベルティなんですけど、島田歌穂さんの事務所からクレームがついて、わずか百体しかつくられず、そのほとんどが回収されているんですよ」とか、のたまう。汗かきサラリーマン、脱水症状で失神ですわ。


 贋作といえば、長きにわたり、偽物呼ばわりされて、レゾネにも載っていないゴッホだかの絵が、実は本物だったってニュースがありましたね。鑑定士も万能ではないということです。えっ、『万能鑑定士Q』ですか? 面白かったのですが、手元に残したくなかったんで売っぱらいました。理由ですか? 作者が生理的に嫌いだからですけど、何か?


 贋作というか捏造の王様は、あの五所川原原人ですよね。マジックハンドならぬゴッドハンドと異名をとった先生が早朝の散歩にかこつけて、自作の石器を遺跡に埋め込むところを毎日新聞のカメラマンがパシャリと撮っちゃった。考古学会大騒ぎですよ。しかも間の悪いことに小学館かどっかから『決定版 日本の歴史』全十五巻だったかな? それの発刊が始まって、第二巻で、捏造先生礼賛の文章が長々と載っていたのです。慌てて、回収し、随分と経ってから新版が出まして、「書店にてお取替えいたします」ってアナウンスがされたのですが、どう考えたって旧版の方が将来価値が出ますから、ほとんど交換する人はいませんでした。交換された方こそ、真の日本史通だと賞賛したいですな。


 さて、ここだけの話ですが、二十年近く前に、おいらはバカ書店旧たまプラーザ店のセールスリーダーというのをやっておりまして、くだんの『日本の歴史』が全社キャンペーンという名の、実際は社員からの金銭搾取ですね。一人、九冊ノルマがあったのです。店頭で、売れればよかったのですが、こんなものそうそう売れません。すると、一人でブーフーウー全役をこなしてしまう店長、又の名を左門豊作店長がおいらをバックヤードに連れ込み、おいらの手に結構な金額を持たせて「この金で、自腹を切ってあの本を買ったことにしてくれ。他の社員には内緒だよ」とおっしゃいました。実はおいら、この金の出所を知っていました。毎日の閉店時に行われるレジの精算のとき、時々、理由が不明な大金が出ちゃうことがあり、それを本部に正直に申告すると大問題になるので、店長がそれを抜き出して、非常の時のために隠していたのです。おいらはその隠し場所も知っていましたよ。もちろん、知らん顔してね。

 つまり、おいらは店長の売り上げ捏造に加担したわけです。ですから捏造先生のことをとやかく言える立場にない。あれ、サゲがありませんが、お時間となりました。失礼いたします。

 では。

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