三分間

高梯子 旧弥

第1話

 意識が芽生えたらそこは真っ暗な空間の中であった。

 どこからも光が射さない漆黒の闇。

 自分が何なのか。どこで生まれたのか、そもそも自分はもう生まれているのか。生まれるのはこれからで、今は意識が芽生えた状態なだけではないか。

 動くこともできず、何かを見ることもできない。ただひたすら待ち続ける日々。

 だが幸いなことにどうやらここにいるのは自分だけではないようだ。

 見えはしないし、感じもしないけれど確かに伝わる感覚のようなものがある。

 しかしなぜ自分はこんな所に閉じ込められているのだろう。全然身に覚えがない。

 常人なら発狂してもおかしくないこの状況下で自分はえらく冷静だった。まるでここでこうしていることが使命かのようにも感じられた。

 宇宙空間というのはこういう感じなのかもしれないと思った。

 一歩間違えると上下左右がわからなくなるような感覚。宇宙と違うのは自分はちゃんと重力を感じていることと宇宙のように果てがないわけではなく、少なくとも重力を受けて下に落ちていないということは下には地面があるということだ。

 それについては自分は安堵した。

 しかしこれではただの現状維持ができるだけで何も変わっていない。

 どうにかしなければと思った矢先、事態は動いた。

 どうなったかわからないが、この真っ暗な空間が動いたのである。

 この空間が自立しているのか、自分は左右に振られながら身を任す。

 しばらくしてどこかに着地したような感覚があったと同時に揺れが治まった。

 これで一安心かと思いきや今度は上のほうから光が射しこんできた。

 今までの真っ暗な空間にいきなり光を浴びただけでも驚いたのに、それに加えて何やら液体が自分の身に当たった。

 それは温かいというよりもはや熱いくらいではあったけど、不思議と心地良かった。

 ほどなくして自分の身は液体に覆われていた。時を同じくして液体の侵入も止まり、再び暗い空間になった。

 けれども先程みたいな完全な暗闇ではなく、少し光が漏れている状態だった。

 そんな中で熱い液体に浸されながら自分は考える。

 この空間が動き始めてから今に至るまではとても迅速であった。この何とも心地良い液体は自分の身をほぐしてくれるうえに何か少し自分が大きくなった気さえした。

 この液体の表面では熱さのせいなのか、泡が膨らんでは弾けを繰り返している。

 一緒の空間にいた仲間たちも心なしか大きくなってきた。

 だが自分たちが大きくなるとこの液体が減っていくような気がする。

 これはもしかしたら自分たちがこの液体を吸収することによって成長できる何かなのかと期待で膨らむ。

 自分たちはこのまま成長してこの先どんな風になっていくのだろう。そんな未来を考えると楽しみで仕方がなかった。

 それからどのくらい経っただろうか、また上から大量の光が射しこんできた。

 今度はどうなるのだろうとわくわくしていると光のあるほうから「やっと三分経った!」という声が聞こえた。

「え」と思うよりも先に木の棒二本が自分の体を挟み込んで引き上げた。

「やっぱりカップ麺は楽に作れていいな」という声のする方向へと運ばれていった。

 自分が液体に浸かった三分間。あれで自分が成長して何かすごいことができるなんて思っていたけど、まさか人間に食べられるまでのタイムリミットだったなんて夢にも思わなかった。

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