第67話 イヤホンのノイズ

 君は、音楽が好きかい?

 言い方が違ったかな。電車に乗ってる時とか、歩いてる時とか、イヤホンで音楽を聴いたりする?

 僕はしないんだよね。身の回りの音が聴こえなくなるっていうのが、どうにも気持ち悪くて。

 ああ、音楽は好きだよ。全然流行りについて行けてないけどね、ハハ。

 それじゃ、音楽に関する怖い話をしようか。


 —イヤホンのノイズ—


 知り合いの妹さんから聞いた話。

 妹さんは中学三年生の頃、受験勉強に追われていた。第一志望の高校に落ちないように、毎日必死で勉強していたそうだ。

 家庭の事情で塾なんて行けなかったから、勉強は独学でやっていた。学校から帰ってきたら、まずは宿題を終わらせて、その後はひたすら予習復習。

 どうやったらいいか分からなかったから、とにかく頭に詰め込んでましたって笑ってたっけ。

 そんな勉強漬けの毎日の息抜きは、BGMとして音楽を聴くことだった。

 マンション住まいだったから、大きい音は出せない。携帯にイヤホンを差して、好きな歌手の曲を聴きながら、勉強に励むのが日課だった。

 ある夜のこと。その日も音楽を聴きながら、勉強していると、ふとイヤホンにノイズが走った。

 ジジジジジ、ザザ、ザアアァ。

 あれ、おかしいなあ。こんなこと、今までなかったのに。

 トントン、とイヤホンを指で叩くと、ノイズは走らなくなった。

 何だったんだろ。ま、いっか。

 次の日。また夜な夜な勉強していたら、またイヤホンにノイズが走った。

 ジジジジー、ザあ、ザザザザザアァー。

 あれ、まただ。もう、なんなの。

 またトントンと叩いてみたら、ノイズはより一層激しくなった。

 ザザザザアー、あああああー、ザザッ、ジジジジジ。

 もうっ!

 イヤホンを引っこ抜いて、もう一度差し直すとノイズは走らなくなった。

 買い替え時なのかなあ。まだそんなに古くないのに。でも、もう今月はお金が無いしなあ。

 お小遣いの算段を立てていると、ふと脳裏によぎるものがあった。

 ・・・なんだかさっきのノイズ、人の声みたいに聴こえたなあ。

 急に背筋が寒くなって、後ろを振り返った。当然、部屋には一人。誰もいない。

 変なことを考えるのはやめよう。集中しなくちゃ。

 気を取り直して、また勉強に励んだ。 

 そして次の日、勉強していると、またノイズがした。

 ジジジジジジジジジ、ザザザザ、ザあああああああああああああ。

 次の日も、

 ザザザザああああああああああああ。

 その次の日も、

 ザザザザ、ジージジジジジ、ザああああああああああ。

 そのまた次の日も、

 ザザッ、ジジジジジジジ、ざあああああああああ。

 毎日一度、必ずノイズが走る。

 ザザザザザザザああああああああああああああああー。

 うるさいっ!

 ある日、とうとうしびれを切らして癇癪を起こした。

 なんなの!もう!いい加減にしてよ!うるさいったらありゃしない!集中できないじゃない! 

 イヤホンを引っこ抜いて、部屋の隅に投げつけた瞬間だった。

 —————やっと気づいたの?

 え?

 振り返ると、顔のすぐ近く、耳元に、頬がこけた女の顔があった。

 女の口は、まるで穴みたいに丸く開いたまま、

 あああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 そこで記憶が途切れていて、気が付いたら、ベッドで寝ていたそうだ。なぜか反対向きに。足が枕の方向を向いて。

 あれ、夢だったのかな?疲れてて、怖い夢を見ちゃったのかな?

 でも、イヤホンは部屋の隅に絡まって落ちていた。

 それからというもの、イヤホンをするのはやめて、小さい音量で音楽を流しながら勉強することにした。

 怖い体験をしたのはそれっきりで、高校二年生の時にマンションから引っ越すまで、不気味なくらいに何もなかったそうだ。

 想像したら、怖いよね。イヤホンのノイズなんかじゃなかったんだから。ずっと、女は耳元で・・・。

 ああ、ちなみに、無事に第一志望の高校に受かったらしいよ。幽霊にもめげずに、勉強に励んだ成果が出たんだね、ハハ。

 

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