第60話 再会
よし・・と。いち、に、さん、し・・・、正の字が12個。
これで60話目か。僕の話をする番だね。
どこまで話したんだっけ?ああ、親友が僕の家に来たところだったかな。
ん?どうしたの、そんな怖い顔して。
ああ、これかい?心配いらないよ。もう慣れちゃったからね。
なんでこんなことしてるのかって?
はは、これはね、こうしなくちゃいけない決まりなんだよ。百モノ語のね。
だから大丈夫。心配なんてしなくていいんだ。
ふふ、説得力がないって?
まあ確かに、一話語る度に腕に切り込みを入れるのは痛いんだけどね。でも、こうしなくちゃいけないから仕方がないさ、はは。
—再会—
僕は親友を迎えに玄関まで行ったよ。
正直怖かった。でも、ようやく対面できることに、どこか安心していた面もあった。
とにかく、僕は親友にいつもの調子でいて欲しかった。バカみたいな話で一緒にゲラゲラ笑ってたような、そんないつもの親友にね。
そんな期待を胸に、僕はドアを開けた。
親友がそこにいた。あのニット帽を目深にかぶって、ポツンと突っ立っていた。まるで、今にも消えてしまいそうなほどに生気が感じられなかった。
よ、よう。
震えながら声をかけたけど、親友は返事をしなかった。虚ろな目で、俯いたままだった。
・・どうしたんだよ、大丈夫か?
もう一度呼びかけると、急に親友がビクッと反応した。まるで、たった今僕が呼びかけていたことに気が付いたように。
親友は初めて僕の方を見た。生気を失っていた目が見開いたと思ったら、今度は急に号泣しだした。
親友がそんなに泣いてるところを、僕はそれまで見たことがなかった。泣いてるところは何度か見たことある。犬が死ぬ映画で泣いてたし、僕の貸した漫画を読んで泣いてたしね。
でも、そんな泣き方の比じゃない。号泣も号泣。まるで、親しい人間を亡くしたような、そんな泣き方だった。
ボーっと突っ立ってたかと思ったら、今度は号泣しだすんだ。正直怖かったよ。
お、おい、どうしたんだよ。何があったんだよ。
そう聞いても、泣いてばっかりで返事をしないから、埒が明かない。とりあえず、僕は親友を家の中に引き入れた。落ち着かせようと思ってね。
親友を部屋にあげて、とりあえず座らせた。泣き止む様子がないから、僕は飲み物でも出そうと思って、キッチンに行って冷蔵庫を開けたんだ。
入ってたのは酒だけだった。まあいいかと思って、缶を二つ掴んで振り返ると異様なことが起きていた。
親友が急に泣き止んでいたんだよ。さっきまで背中を丸めて号泣していた親友が、今度は背筋をピンと伸ばして正座しているんだ。
何が何だか分からなかった。不気味だったよ。まるで人格が切り替わったみたいだった。
あ、あのさ、酒あるけど、飲む?
・・・酒?ああ、いらない。
再開してから初めて、親友が喋った。抑揚のない声だった。感情を失っているかのような、そんな声色だった。
あ、ああ、そう。
僕は冷蔵庫に酒を戻して、怖々しながら親友の対面に座った。よく見ると、顔には涙の痕が残っていて、目元は腫れていた。ずっと寝ていないのか、どす黒いクマもできてる。
お前さ・・・、何かあったの?
・・・何かって?
い、いや、俺、今日お前の家に行ったんだよ。そしたら、鍵は開いてるし、中は荒れてるし・・・。そ、そう、電話でも言ったけど、お前、携帯失くしたの?
僕は溜めに溜めた疑問をぶちまけたけど、親友の返事はそっけないものだった。
ああ、そっか。そういうことか。
答えになってないけど、何に納得したのかは聞けなかった。
それヨりさ、お前、怖イ話好きだっタよな。
・・・え?
僕はその時、親友の抑揚のない声に、何かが混じっているような気がした。電話越しに話した時と同じ違和感を感じたんだ。
あ、ああ、うん。・・そうだけど。
何かサあ、そういウ怖い話が載っテるサイトとか知ラないの?
えっ?・・いや、まあ、知ってるし、そういうの好きだからよく見るけど・・。
へえ。ちょっとサ、教えてくレないか?そのサイト。
訳が分からなかったけど、とりあえず僕は言われるがままに、携帯で行きつけの怖い話が載っているサイトを表示して見せたよ。そのサイトはね、オカルトマニアの僕が見るだけあって、結構コアな怖い話や、あんまり有名じゃないマイナーでリアルな怖い話が集まっているんだ。
こんなのだけど・・・。
親友の目の前に、携帯をかざして見せた。
すると突然、親友が僕の手から携帯を奪った。手首を掴んで、ギリギリ締め付けながら僕の手から毟り取ったんだ。
痛っ、おい!何すんだよ!お、お前、一体どうしちまったんだよ!
僕は思わず怒鳴った。情けないけど、ちょっと涙声だったかな。
でも、取り乱した僕とは違って、親友は一切動じていなかった。手首を抑える僕を尻目に、食い入るように携帯の画面に見入っていた。カリカリ画面を引っ掻いてスライドさせながら。
血の気が引いたよ。意味が分からなかった。僕の知ってる親友はそんなことをする奴じゃない。たとえ冗談でも、人に手を上げたり、傷つけるような奴じゃないんだ。絶対に。
そして何より、掴んできた親友の手が、氷みたいに冷たかったんだ。夏だっていうのにね。
泣きたくなったよ。せっかく親友に会えたっていうのに、まるで別人になってしまったみたいだった。姿は親友そのものなのに、何かがおかしいんだ。でも、姿は紛れもなく親友なんだよ。それがまた辛くて。
もう何も言う気力はなかった。ただひたすら、親友の気が済むのを待ってたよ。黙って、何も言わずに俯いたままね。
いったいどれくらいの間待ってたのか覚えてないけど、しばらくすると親友が僕の携帯を置いた。
顔を上げると、親友はまた涙を流していた。でも、泣いていたのに、顔は笑っていたんだ。でも、嬉し泣きとは全然違う表情だった。なんというか、大きな罪を犯してしまった善良な人みたいな、そんな表情だったよ。
なあ。
親友がその顔のまま、問いかけてきた。
———お前さ、怖い話を聞クのも、好きだったヨなあ?
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