第41話 埋めた犬
ふふふ、なんだいその顔。引っ張るような喋り方するなって?
勘弁してよ。僕だって一気にまとめてこの話をするのはちょっときついんだ。
怖くない?一話の怖い話として成立してないって?
ははは、別にいいじゃない。それに、なんでかこの話を一話とカウントすることは、許されるみたいなんだ。
だから何も問題ないよ。さあ、次の話をしよう。
—埋めた犬—
大学の同級生の彼女から聞いた話。
彼女は小学生の頃、ペットとして犬を飼っていた。雑種の茶色いムク犬で、小さい頃からずっと一緒だったそうだ。
凄く私に懐いていて、滅多に吠えたりしないお利口な犬だったんです。そう言ってたよ。
彼女が小学四年生の頃、悲劇が訪れた。散歩中、そのワンちゃんが車に撥ねられてしまったんだ。
散歩コースはいつも通ってた滅多に車が通ることのない細い道。角から急に飛び出してきた車に、接触して撥ねられてしまった。しばらくは息をしてたものの、当たりどころが悪かったのか、徐々に冷たくなっていったそうだ。
酷いもので、撥ねた車はそのまま走り去ってしまった。轢き逃げみたいなものだ。あっという間の出来事で、ナンバーを見る暇もなく、犯人は特定できなかった。
それはそれは落ち込んで泣いたそうだ。想像しただけでも悲しいよ。多感な時期に、小さい頃からの親友を奪われたようなものだ。酷く落ち込んで、ずっとワンちゃんの遺体に縋りついて泣いていた。
仕方がなく親に諭されて、家に遺体を持って帰ったはいいものの、ずっと置いとくわけにもいかない。わがままを言って泣き喚いたけど、そのままにしていたってしょうがない。
結局、その日の夕方に親と一緒に近くの裏山に埋めに行ったそうだ。いやだ、お別れしたくない。ずっとそう言って泣いていたから、親が穴を深く掘って遺体を丁寧に底に置いた。
ほら、○○ちゃんにお別れを言いなさい。
今にして思えば、親もちょっと涙声だったそうだ。グズグズ言いながらも、ちゃんとバイバイしてワンちゃんの遺体は埋められていった。
夜になっても気分は落ち込んだままだ。夕食も喉を通らなくて、シクシクと泣きながらベッドに入った。
次の日の朝。起きた瞬間にワンちゃんが死んだことを思い出して、悲しくて目が潤んでいたら、玄関の方から親の驚いた声がした。
どうしたの?階段を降りて玄関に向かうと、両親が外に佇んでいた。その足元に、土だらけのワンちゃんがいたんだ。
○○!どうしたの?何があったの?ねえ!
両親に問いただすと、父親の方が口を開いた。
○○はな。最後の最後にお前に会いたくて、お別れを言いに来てくれたんだよ。
その言葉を聞いた瞬間、ドッと涙が溢れた。ああ、会いに来てくれたんだ。あんなに深くに埋めてあげたのに、最後に私に会いに来てくれたんだ。
悲しいやら嬉しいやらで、涙が止まらなかった。でも平日の朝の事だ。学校があったから、出ていかなくちゃならなかった。
大丈夫。○○はまた元のとこに埋めてあげるから、あんたは学校に行ってきなさい。
やだ。行きたくない。私もいっしょに行く。
駄々をこねたけど、母親に諭されて、仕方なく学校に行った。土だらけのワンちゃんを、何度も何度も見返しながら歩いて行ったそうだ。
それから、長い月日がたったある日の事。もうすっかり大人になってから、ふとそのワンちゃんの話題になった。
あの時、○○は最後に会いに来てくれたんだよねえ。
そう言うと、両親はなぜか苦い顔をしている。
どうしたの?そう聞くと、苦い顔のまま両親はこう言ったんだ。
もう大人になったから、いいだろう。お前、あの時本当に○○が穴から出てきて最後にお別れを言いに家に来たと思ってるのか?
・・・ちょっと、どういう事?
○○は車に轢かれたときに、確実に死んでいたんだ。身体も冷たくなってた。お前も覚えてるだろう。
・・・うん。
死んだ犬が、あんな深い穴を盛り返して家まで来ると思うのか?
・・・。
あの時は咄嗟にごまかしたんだ。まだ子供だったお前が怖がらないように。
・・・何が言いたいの。
・・・誰かが○○の亡骸を掘り返して、家の玄関の前に置いたんだよ。
言葉を失った。一体どこの誰が、どうしてそんなことを。
両親は苦い顔のままだった。両親も心当たりなんかなかったそうだ。あまりにも気味が悪かったものだから、近くの交番に相談にも行ったらしい。結局何の解決にもならなかったらしいけどね。どこかの不審者のしたこと。それで片がついて、それっきりだったそうだ。
考えてみれば、おかしいよね。死んだ犬が穴から出てきて玄関で息絶えるなんて。そんなのあるわけがない。でも、大人になるまでそのことは感動エピソードとして記憶していたそうだ。
こんなに怖くてモヤモヤするのなら、ずっと教えてくれなかった方が良かったです、って言ってたよ。無理もないよね。せっかくの子供の頃の綺麗な思い出が台無しだ。
この話を聞いた時、ふと思ったことがある。
ワンちゃんが轢かれたのは、滅多に車通りのない細い道。いつもの安全な散歩コース。そこに急に飛び出してきた車に撥ねられた。
・・・もしかして、ワンちゃんを撥ねた奴と、遺体を掘り返して玄関に置いた奴は、同一人物なんじゃないか?
・・・彼女の気持ちを考えて、そのことは言わないでおいたよ。これ以上、気味悪がることはない。ただの憶測だし、根拠なんてない。
それでも、なぜかそう考えちゃうんだよねえ。僕は性格が悪いのかな?ははは。
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