第3話 降りてくる死体

 さあ、サクサクと進もうか。次はね、アパートじゃなくて、高層マンションの話。


 ―降りてくる死体―


 高層マンションに住んでるリッチな人から聞いた話。大都会のど真ん中にそびえたってるビルの高層マンションでね、エレベーターがいっぱいあって階数がウン十回もあるようなとこ。そこの中ほどの階に住んでた人が体験したことなんだけど。

 越してきてしばらくたったある夜、真夜中の三時過ぎ頃のことらしいんだけどね。夜更かししてリビングで本を読んでたら、急に背後に気配を感じたらしいんだ。ああ、この人はいわゆる視える人ってやつね。霊感があるみたいで、時々変なものを見るらしいんだけど。

 それがね、振り返ったら、足が天井から生えてたっていうんだ。ええ?と思ってずっと見てたら、ゆっくりゆっくりその足が降りてくる。膝が見えて、腰が見えて、ゆーっくり徐々に全貌が明らかになってきて、とうとう最後に首のとこまで来たところで、不思議なことに気が付いたんだ。

 ずうっと降りてきてた身体がね、首だけろくろ首みたいに伸びて、いつまでたっても頭が降りてこない。首だけが伸びていってるみたいになって身体が床に沈んでいくんだって。

 結局身体だけが床に透けるみたいに沈んで消えていっちゃった。天井と床が伸び切ってる首で繋がってるみたいにね。想像したら結構怖いけどシュールな絵面だよね。はは。

 ずっと見てたけど、いつまでたっても首は消えないからそのまま寝ちゃって、朝起きたら消えてたらしいよ。

 それからちょっとして、これまたリッチな友達がそのマンションの下の階に越してきたらしいんだ。階数が一桁の部屋にね。それで引っ越し祝いってかこつけて、その友達の部屋でパーティーしたんだ。

 夜も更けてきて、もうみんなが寝ころがりだす頃、ちょうど三時半過ぎって言ってたかな。その人も例にもれずにソファーでうとうと舟をこいでたらしいんだけど、鳥肌が立ったって言ってたよ。

 自分の部屋で目撃した出来事がそっくりそのまま起きたんだって。天井からゆっくりだらりとした足が降りてきて、まただらりとした全身が降りてくる。そしてやっぱり首だけが伸びて頭が現れない。

 つまりこの死体は上の階からゆっくり下降してきて、ずうっと下まで降りていくんだ。首だけが伸びきっていって身体だけがね。

 その後、有名な事故物件検索サイトで調べてみたらね、最上階に近い部屋の一室で、破産した金持ちの男が首をくくって自殺したって情報が出てきたんだ。おそらくそいつだろうね。

 知ってる?首吊り死体ってね、首が身体の重さに耐えきれなくて伸びきっちゃうんだよ。地面につくまでね。なんでかわからないけど、そいつは幽霊になっても毎夜首吊りやってるんだろうね。そして身体だけが高層マンションを貫くように降りていく。

 どうしてなんだろうね?やっぱり人に見てほしいのかな?幽霊って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る