美味しいものを書いてみた。

名▓し

《黄金のフレンチトースト》

 窓際に見える潜水艦のごとし深い味わい。

 

 熱々の鉄板に表面をこんがり焼かれたそれは、ナイフの刃がいらないほどすとんっと入る。少し引くだけで簡単に切れてしまうそれを、はじめはなにもつけないで頂く。

 はむっ。フォークで刺すにはあまりにやわらかすぎるパンが口に入れた途端、溶けていく。卵を充分に吸ったまろやかさは、表面とは裏腹に上質な肉のように儚く消えていく。とろみとは別の味わい深いトーストに、今度は鉄板の熱にも負けないソフトクリームを乗せる。

 トーストの熱でクリームが液体に変わり、その甘みとコクを吸ったトーストがさらなるうまみを高めていく。 まろやかになるソフトクリーム。


「ん~~っ」


 これだけも尚美味しいのに、まだ続きがあるのだ。

 滑るように一切れを呑み込んで、まだ3つあるトーストを見つめる。

 この行程を一切れにとどめたのには理由がある。

 カフェメニューであるこの黄金のフレンチトーストには、一種の麻薬的作用がある。

 それは途轍もなく珈琲が飲みたくなるのだ。それも単なるホットやアイス珈琲ではない。ミルクのたっぷり入ったキャラメルコーヒーでないと、この疼きを満たせるものはない。

 だが、ここが経営の上手いところで。そのキャラメルコーヒーはドリンクセットに入っていないのだ。頼めるコーヒーはホットとアイス。それ以外は余分に別で注文しなくてはならない。


「くっ」


 お財布事情を考えると、ここは諦めるべきか……。

 だが裏腹にコーヒーを欲する衝動は増していくばかり。

 これでは本当に満たされたとはいえない。

 ちらちらと見えるお土産の海自カレーを我慢しつつ、一呼吸の号令のもと呼びベルを鳴らす。

 チンっと小気味良い音がなり、店主の可愛らしい声が聞こえる。


「……よし、」


 同時にふふんっと上機嫌に鼻も鳴る。

 美味しいものには出費をいとわない。これ鉄則であった。

 今日もひとり、かわいい(自称?)女の子が口が蕩けるメニューをいただきましたとさ。

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美味しいものを書いてみた。 名▓し @nezumico

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