男子生徒A -最後の3分間-

もえすとろ

mobはいつも巻き込まれる側

男子生徒Aこと俺はmobである

mobは名前持ちネームドたちの背景だ

特徴らしい特徴もない、ただの一般人

そのはずだ……


しかし、今現在俺の置かれている状況は異なっている

クラス内1、2を争う美少女二人と昼食を食べている

彼女らは名前持ちのヒロインだ

一人は元気が取り柄の南城千秋さん、もう一人は成績優秀の堀北春香さん

本来なら名前持ちの男子とラブコメを繰り広げるべき存在だ

なのに、彼女らはmobと昼飯を食べている

初めて会話し、その場で告白されて答えを待つって言いながらずっと俺に付きまとっている


今、俺は世界の理ルールを絶賛破っている最中である

規則は破るためにある?そんなわけないだろ


ルール違反者は世界から粛清される

そう思っていた俺は残された短い時間、精一杯楽しもうと考えた

どうせ死ぬなら最後くらい良い思いしてもバチは当たらないだろ?


なのに……一向に終わりは訪れない

アレから数か月、自身の命が尽きるまで決して後悔しないように過ごしてきた

お蔭でmobとしては最高の学校生活を送れた


どうして俺に終わりが訪れないのか不思議だった

でも、無自覚の恐怖から深く考えないようにしてきた



今朝までは……





今朝、下駄箱に一通の手紙が入っていた

差出人の名前は無し

内容は


 初めまして

 我々は世界の意思の代行者


 今、君を取り巻く環境は異常だ

 我々は世界の為にその異常を解消したいと思っている

 詳しい事は直接会って話そう

 今夜21時57分、〇✕公園に一人で来てほしい


 もし来てもらえない時、遺憾ながら実力行使も辞さない

 その場合、君と周囲の人の命の安全は保障できない

 賢明な判断を願う



そして、同封された写真が5枚

友達のB、D、南城さん、堀北さん、俺


これは脅迫状だ

とうとう終わりの時間が訪れた、そういう事だろう


だから俺は、精一杯いつも通り過ごすことにした

最期だからって特別な事はしない!だって俺はmobだから

mobが足掻いた所で何も変わらない

なら大人しく俺は受け入れる



放課後、一人教室で外の景色を眺める

振り返ってみると、悪くない人生だった

ただのmobとして何も無く終えると思っていた俺にとって刺激的な毎日

でも、今思い返せば楽しかったんだ

最初は死の恐怖の方が勝ってた

次第に恐怖を感じないで二人と会話できるようになった


うん、これはこれで良い人生だった


ひとしきり黄昏てから帰宅

早めに夕飯を食べて、時間を確認する

19時25分

宿題を終わらせてから行くか



一通り片付いて時間を確認する

だいたい21時半

そろそろ行こう

俺「母さん、ちょっと公園まで散歩してくる」


母「珍しいわね~、あんまり遅くならないようにね」


俺「は~い」


公園に向かう途中……少しだけ涙が零れた

これから俺の人生は終わる。感慨深いものだ






公園に着くと時間は55分

ちょうど良い時間だ


男「来たか、イレギュラー」

暗闇からスッと現れたのは一組の男女


俺「えっと、君たちが世界の意思の代行者?」


男「そうだ」


俺「そっか」


男「まずこちらの話からしよう。今世界は同じ時間をループしている、コレは異常事態だ。それに気がついた俺たちは調査を始めた。そして、一人のおかしな存在を発見した」


俺「それが、俺か」


男「そうだ。君はmobでありながら名前持ちと関係を持っている。しかし、粛清されていない。これは明らかに異常だ」


俺「俺もそう思うよ」


女「なら何故放置したのよ!」


俺「俺はまだ死にたくなかったんだ……!」


女「そんなの許されると思って」


俺「思ってない!でも、それでも俺は……生きたかった、ただそれだけなんだよ」


男「ここに来たって事は」


俺「終わりが来た、そうだろ?」


男「ああ、そうだ。俺はこの世界の為に君を」


??「「待って!!」」


俺「え……?」


女「誰⁉」

男「誰だ⁉」


待ったをかけたのは……南城さんと堀北さんだった


俺「な、なんで此処に?」


南城「そんなの決まってるでしょ!」


堀北「アナタを助けるためよ」


俺「でも、俺は……」


南城「許さないよ、そんな最後なんて!」


堀北「mobなんですから、後は名前持ちの私たちに任せてちょうだい」


男「おい!一人で来いって言っただろ」


俺「俺は言ってない!」


女「じゃあ何でここにその二人が来てるのよ!」


堀北「そこのあなた、五月蠅いですよ?私たちは恋した相手の変化を見逃さないだけよ」

え……?俺、いつも通りにしてたはずなのに


南城「どんな些細な事でも、好きな人の変化は気がつくの!それが真のヒロインだよ‼」

なんじゃそりゃ……そんなの隠し事すらできないじゃないか


男「君たちがそこのmobと関わり続ければ世界は壊れる!」


堀北「だから何?」


女「だから何、ですって⁉世界がどうなっても良いっていうの⁉」


南城「ヒロイン舐めんな!ヒロイン恋する乙女はね!世界と恋なら恋をとるの!」


男「バカなっ!そんな事」


堀北「許されない?誰が許さないって言うの?言ってみなさいよ。ほら!」



男「せ、世界の意思だ!つまり、その代行者である俺達だ!」

女「そうよ!」


南城「そう、それで…あなた達は誰なの?世界の意思?代行者?それは名前じゃないよね?いい加減名乗ってよ。私は彼の真のヒロイン、南城千秋!」

堂々と名乗りを上げる

いつもの天真爛漫な雰囲気とは少し違う、威厳のようなものを感じる


堀北「千秋の恋敵ライバル、堀北春香。次はアナタ達の番よ」

堀北さんも普段のクールな視線とは違う、とても熱い視線

その視線に見つめられて動きを止める3人


俺は内心疑っていた

彼女らは俺がいなくなればそれまでで

また名前持ちの世界に帰るだけだろうと

俺のことを好きだと言うのは気の迷いか何かなんだと

そう思っていた

なのに……彼女たちはココに来た

嬉しさとそれ以上の困惑が俺の内側で混ぜこぜになる


南城「さぁ!名乗って!世界の意思を代行するアナタ達は何者なの!」


男「…………俺は」


堀北「はぁ……所詮、アナタはmobなのよ」


男「くっ……」


俺「え?mob?」

男の方を見ると悔しそうに顔を歪ませていた


女「なによ!名前持ちだからって偉そうに!彼は私の…孤独な私のヒーローなのよ!」


堀北「なら、そこにヒーロー君?あなたの隣に居る女子の名前は、言える?」


男「名前……?えっと……」


女「ダメよ、考えちゃダメ!」


男「知ら、ない……?」


堀北「やっぱり、ね。アナタ達は確かに世界から選ばれたのでしょう。でも、それは彼を粛清する為じゃないわ」


男「でも、こいつのせいで世界は」


南城「ループしてる。でもそれは、彼がmobだからじゃないよ」


女「そんなはずは」


堀北「ループしてるのは……彼が選べてないからよ。私か千秋を」

どういう事だ?俺が選んでない、から?


城南「ホントは教えたくなかったけど、もう隠せないね」


俺「ど、どう言う事だ?何が何だか」


城南「君が世界の理を破っても生きていられるのは、私たちが本気で君の事が大好きだから、だよ///」

本気で?


堀北「私たちが恋した相手は、死なないの。私たちヒロインが悲しむから」


俺「そんなの」


城南「信じらんないよね。でも、ホントだよ。それが理不尽なまでの世界の理ルールだから」


堀北「この世界は、名前持ちの為にある」


名前持ちの為の世界……なら俺たちmobの存在理由ってなんだよ

なんで俺たちは存在してるんだよ

もう……分かんねぇーよ


女「そんなの、そんなの信じられないわ!なら私たちが生きる意味は!存在する意味は!何も無いって言うの⁉」


堀北「それは……」


南城「あるよ!!だってその証拠に彼がいる、私たちが恋した彼が!」


俺「お、おれ?」


南城「もし、mobに生きる意味が無いとしたら私は彼を選ばなかった!」


堀北「そうね。私も」

二人に見つめられて、ドキッとする

こんな真っ直ぐな好意を意識したのは初めてだ


女「そんなの、その男が特別だったってだけじゃない!」


俺「それは違う、と思う」


女「二人の名前持ちに愛されていて特別じゃないですって⁉笑わせないで!」


俺「俺はどこまで行ってもただのmobだ。でも、そんな俺を好きだって言ってくれる人がいた。それがたまたま名前持ちだったってだけで」


女「それが何だっていうの!」


俺「君にもいるじゃないか!例え名前持ちじゃなくたって大切な人が!隣に!」

この女の子の隣に心配そうに、何かあれば身代わりになることも厭わない

そういった決意を持った目をした男が


女「っ!?」


男「俺の、たった一人のヒロイン……君が望んでくれるなら、俺はいつまでも君のヒーローでいられる」


女「……そんなの、当たり前じゃない。あなただけがずっと私のヒーローよ」


俺「一件落着、かな」


南城「ううん、まだ根本的な問題が残ってるよ」


堀北「私か千秋か、選ばなと」


俺「そっか」

どちらかを選ばないとまたループしちゃうのか

でも……俺は……


南城「選べない?」


俺「ごめん。今まで、いつ死んでもいいように選ぼうなんて考えなてこなかったから」


堀北「そう、なのね。だからどんなに楽しそうにしてても、もう一歩を踏み込んでこなかったのね」


俺「ほんとにごめん」


女「浸ってる所悪いけど、今日中に選ばなと大変な事になるの」


俺「大変なこと?」


男「ああ、世界がズレて一部の関係性が壊れるんだ」


俺「関係性が壊れる?」


男「簡単にいうと、名前持ちがmobになったりmobが名前持ちになるってことだ」


俺「そんな事になったら」


女「今まで築いてきた信頼関係も何も滅茶苦茶になるってこと」


俺「そんな……時間は?今日中って事はまだ時間あるんだろ⁉」

時計を見ると22時57分

約1時間で明日、か


女「あと、3分よ」


俺「え!?」


男「君に、いや…世界に残された時間は3分だけだ。それで最後だ」


俺「そんな……」


城南「ごめんね、私たちが告白したせいでこんなことになっちゃって」


堀北「どっちを選んでもアナタが死ぬような事はないから、安心して」


城南&堀北「「選んで」」


俺は……俺が好きなのは……












世界に残された

最後の3分間

決して長くはない

この時間で下される決断に

世界はどう変化して征くのか

彼らの関係性はどうなるのか

そして男子生徒Amobの運命や如何に

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