リモコン、宙に舞う

新吉

第1話

 ここは茶の間、小さな戦場


 我が家の茶の間の時計は3つある。大きな壁掛け時計は5分早い。置き時計は時間通り。もう一つはテレビのデジタル時計だ。時間は時計でしか見ることができない。いいや日が登れば朝で沈みだせば夕方、暗くなれば夜。そうしてみんな寝て起きて、働いては休んでいる。今では、夜中だろうといろんな番組が放送されている。


 見たい番組がある。時に譲れない時がある。だけど何かとかぶってしまうときがある。仕事に家事、家族という敵。そんな時に便利なのが録画。また見るだけ予約というものがある。番組表の情報の中には平気でネタバレがあったりする。


 ドラマもスポーツもファンタジーもホラーも感動ものも何でも見る母。ニュースを見たい父、アニメや歌番組を見たい姉とうるさいのが嫌な弟。ご飯を食べたら部屋にこもる。今、母が夢中なのはフィギュアスケート。こだわりは有名選手に限らず放送される選手は全部見ること。コーチにも詳しい。



「ほらまだ出てないんだからいいでしょ」


「何いってんの練習風景が出るから」


「ほらCMに入ったんだから」


「宣伝にだって出るから。それにすぐまた始まるから」



 これがアニメでも同様の騒動になる。



「ほら宣伝だ、もう終わったっちゃ?」


「まだ!Cパートがあるから、あと次回予告!」


「宣伝中はいいっちゃ」


「CMにも新作情報入るから」



 番組の間の宣伝はスポーツ選手の笑顔や、アニメの新情報を入手することができる。CM後も次回予告やらCパートがあったりする。


 さらに悲劇的なのが見るだけ予約のために1分程前にチャンネルが強制的に吹っ飛ぶことだ。確認できる画面もあるが誰がいつどんな番組を予約しているか把握しているのは、うちの姉くらいだろう。



「誰だ!チャンネルいじったの!」


「予約だよ」


「何見るってのや!」


「だめ!」


「ニュース見せろ」


「・・・」



 ワンセグや録画で片方が折れる。音が溢れだす茶の間、次に音量戦争が起きる。別にそうまでして見なくたっていいじゃないか。そういってもお互い譲らないのが納得いかないらしい。


 そしていつのまにか父はこたつで眠りだし、日常的な喧嘩くらいでは起きない。



「あんだ!ショートは3分くらいなんだど!?」


「しゃね」


「3分くらい待てるでしょ」


「・・・」



 抱え込みの姿勢に入るのを確認した母は、姉からリモコンを取る。ついにリモコンは宙を舞う。前人未到の4回転半くらいでお尻から着地。怪我はしてないようだ。かわいそうなリモコン。正直リモコンなんて呼んだことないけど。


 そこで私は戦場から抜け出した。もうこんな日常を見るのも飽きた。別に明日だってテレビで何回もやるのに、それに曲だってアニメだって今やネットでいくらでも見れる。DVDにだってなるのに。それでも彼女らはリアルタイムにこだわる。


 この前震災の時のようにテレビがない方がいいんじゃないかと話になった。電気が開通した瞬間、何の前触れもなくテレビがついた。衝撃的だった。今まで噂が流れていたり、新聞屋さんが頑張ってくれて知り得た情報があったけれど。映像と音声はこんなにも鮮明に現実を映し出すのか。姉と弟は津波を見た。のまれたわけではないがすぐそばで体感した。映像と音声をどんなにテレビが鮮明に世界中に流しても、かなわない。あのときの家族の団結はいったいどこへやら。まあこうして家族がそろっているからくだらない戦争ができるんだ。


 茶の間戦争の勝敗は五分五分。今日は母が勝利し、最終滑走の3分間を見たようだ。

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