平成最後の人類滅亡
科学的空想
第1話
女は夫とリビングでテレビを観ていた。
日曜の昼下がり、ドラマの再放送だ。
女性弁護士が、男社会の中で色々な妨害に遭いながら、成長し事件を解決する話だ。
あまりに露骨な女性差別の男が出てくると、今時いないだろう、と冷めてしまうが、絶妙な、今でもいそうな差別してる自覚もない男が出てくると、いるいると共感してしまう。
『うちの女の子にやらせますよ』
うちの男の子にやらせますよ、って言わねえだろ。なんだ女の子って。
「うちのおじさんにやらせますよ」って言うぞ。
女も女で『うちの主人が』とか『うちの旦那は』とか、家来じゃねえぞ!
幸い、うちの旦那は、その辺りの感覚はしっかりしていて助かる。
あ、旦那じゃない配偶者は。
その時、画面が急に切り替わり、アナウンサーが現れた。
「お、ニュース速報かな。誰かが麻薬で捕まったかな」夫が前のめりになる。
「いいとこだったのに。だいたい、それくらいじゃ字幕でしょ」
よく見ると、アナウンサーが涙を流している。これは尋常ではない。
『皆様、今から三分後に核戦争が起こります。私もさきほど知りました。さきほどアメリカの核弾頭ミサイルが全て発射されました。テロと思われ、アメリカの軍内部に数十年前からテロリストがいた模様です。ウイルスを進入させました。三分後に日本に着弾します。阻止は不可能だと、アメリカは、すべての事実を各国に伝えました。反撃はしないようにと。しかし各国が、それに従う同意は得られませんでした。以上が事実です。皆様、時間がありませんが家族・友人・大事な方に連絡を取ってください。繰り返します』
「何だ、これ、ドッキリ?」夫が笑った。
「他のチャンネルは?」
「全部、そうだ。でも無理だよ、ウイルスだけで発射させるのは」
「あ、今日エイプリルフールじゃん」
「そうか。新元号が決まるってのに」
「平成最後の人類滅亡だね」
その時、二人のスマホがけたたましくなった。緊急速報だ。
内容はアナウンサーが伝えた内容と一緒だ。
「政府ぐるみのエイプリルフールか?」
少し不安になり、親に電話をするが出なかった。
「まあ、大丈夫だろ」
「そうだね」
「ほんとに最期だったらどうする?」
「どうもこうも、三分? もう二分くらいじゃん」
「だよね。結婚する前は、よく愛してるって言ってくれたよね?」
「そうか。たまにだろ。お前こそ言わないじゃん」夫はニヤリとする。
「だって愛してないもん」
「このー」
「愛してるって言ってよ」
「やだよー。そうだ冷蔵庫の抹茶アイスを死ぬ前に食べないとな。でも嘘だから晩飯の後に食べよ」夫は背伸びをする。
その時、ベランダの窓が開き男が飛び込んできた。
「ドッキリカメラー」と叫びながら入ってきたのは、ダチョウ俱楽部の上島さんだ。
「わあ、やっぱりー。上島さんファンなんです。なにこれー」
「旦那さんに依頼されたドッキリなんですよ。速報も、この家だけにしか流れていませんー。クルリンパ」
「もう、あなたったらー」
なんてことを想像していた。
その瞬間、窓の外が真っ白に光った。そしてその光に全てが包まれ、意識がなくなっていく。
「あなた!」
「あい!」まで聞こえたところで全てがなくなった。
夫が「愛してる」と言おうとしたのか「アイスクリーム」と言おうとしたのか、「アイ・ラブ・ユー」と言おうとしたのかは、今となっては分からない。
アメリカを初め、各国首脳や大金持ちは宇宙ステーション「大地」に移住しているらしい。ほとぼりが冷めた頃に地上に降りてくる予定らしい。
そんな誰もいない所で生きていって何が楽しいのだ。なら消えてしまってよかった。
地球上の大きな生物はほぼ絶滅したが、宇宙の誰も困らなかったということだ。
了
平成最後の人類滅亡 科学的空想 @kagakutekikuso
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