この愛しさを、全て君に捧げよう。
水戸 遥
少年は、どこか悲しい顔をしていた。
雨が、窓を叩く。
何も無い無機質な部屋で1人ただ虚空を見つめている。僕はこれからどう生きればいいのだろうか。
そんな思いだけが、胸中を擽る。
この部屋で、一年前のあの日まで一緒に過ごしていたあいつはもう居ない。あの時、僕が無理に連れ出さなければ、もしかしたらあんなことも起きなかったかもしれない。
そんな事を考えていると、不意にチャイムが鳴った。
こんな僕に用があるとはご酔狂だな。
自虐気味に僕は呟く。
そこにまた、催促をするかのようにチャイムが鳴る。
「どちら様でしょうか」
僕は重い腰をあげながら扉を開く。
「良かったぁ。居たんだね」
僕は少し驚いた。そこに居たのは死んだはずのあいつにそっくりだった奴が、美鈴が立っていたからだ。
それもそうか。なんせこいつはあいつにとって唯一無二の妹だから。
「こんな僕になんの用だよ」
少しやっつけ気味に、だけど儚いような声で僕は問いかけた。
「ねぇ、これからさ。君はどうするつもりだったの?電話にも出ないし、メールも返ってこないし」
そう僕は誰とも連絡を取っていないのだから、もちろんこいつもその1人だ。
「そんなのお前に関係無いだろ」
蚊が鳴くような声で、僕は俯き気味に零す。
「良かったらさ、一週間程旅をしない?」
「旅を?なんでまた」
「私の姉の、まぁ君からしたらほぼ嫁同然の彼女だったわけだけど。その友達とかからね、君が腑抜けてるんじゃないかって言われて今日見に来たの。そして君がそんな風だったら、遊びに連れ出してみろって」
「僕がどう過ごそうが勝手だろ!」
つい怒鳴ってしまった。腑抜けてると言われて、図星だったのかもしれない。
僕だって、こんなふうになりたくもないが、あの出来事のせいで、僕は自分のやったことに少し心を病んでしまったのだから。
もうあんな思いをしたくない。そう思って当然。だったら死ぬまでここに居て、誰とも会わなければそれでいいと思ってたからだ。
「なぁ、僕がここに居て。それであいつは喜ばないんだよな」
「多分ね。お姉ちゃんは喜ばないどころか、悲しむと思うんだ。」
何かを思い返すような顔でそう呟く美鈴。
「私の家にあるお姉ちゃんの遺影がさ。最近見てる感じだと、哀しい顔になってる気がするんだよね。そしてさっきも伝えたけど、あいつを見に行ってくれって言われた」
「だからさ、私はここに来たんだよ。何かの転換点かもしれないって思ってね」
弱々しくてだけど綺麗な笑顔で、そう伝えてきた。
なぁ、美琴。僕はここから動くべきなんだろうな。だからこうしてお前の妹が来た。
お前が望むのなら、僕は少しずつだけれど
前を向いてみるよ。
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