図書館の閉館時間になって、

わたしは重い足を引きずりながら、

祈るように家へと足を運んでいた。



図書館にいる間は、なにも考えられなかった。


なにかの間違いか気のせいなのだと、

いつの間にか自分を納得させていた。


そう、気のせいなのだ。なにもないのだ。


そう思いながら家へと向かう。



ドロドロ。

ドロドロ。

ドロドロ。



あっという間に、家の前にたどり着く。


玄関の前で立ち止まる。


大丈夫。大丈夫。


大きくひとつ深呼吸して、玄関の扉に向かう。



ガチャリ



少女が1人、扉から出てくる。


見知らぬ少女だ。

色素の薄い、どこか儚げな少女。

顔立ちは幼く、頬は微かに上気している。

制服のリボンの色から、

中学1年生……妹の後輩だと分かる。



そんな少女が、家から出てきた。

思いもよらず、目が合ってしまう。



少女も誰かと出くわすとは思っていなかったのだろう。

動揺を隠せない様子のまま、

小声で「ごめんなさい」と呟くと、

脇目もふらずに隣を通り過ぎ、帰って行く。


そんな少女が足早に過ぎ去ったあとからは、

ほのかな石けんの香りがただよい――


「あ、おかえり、お姉ちゃん。早かったんだね」


玄関には花のような笑顔でわたしを迎える、

妹の姿があった。

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