⑤
図書館の閉館時間になって、
わたしは重い足を引きずりながら、
祈るように家へと足を運んでいた。
図書館にいる間は、なにも考えられなかった。
なにかの間違いか気のせいなのだと、
いつの間にか自分を納得させていた。
そう、気のせいなのだ。なにもないのだ。
そう思いながら家へと向かう。
ドロドロ。
ドロドロ。
ドロドロ。
あっという間に、家の前にたどり着く。
玄関の前で立ち止まる。
大丈夫。大丈夫。
大きくひとつ深呼吸して、玄関の扉に向かう。
ガチャリ
少女が1人、扉から出てくる。
見知らぬ少女だ。
色素の薄い、どこか儚げな少女。
顔立ちは幼く、頬は微かに上気している。
制服のリボンの色から、
中学1年生……妹の後輩だと分かる。
そんな少女が、家から出てきた。
思いもよらず、目が合ってしまう。
少女も誰かと出くわすとは思っていなかったのだろう。
動揺を隠せない様子のまま、
小声で「ごめんなさい」と呟くと、
脇目もふらずに隣を通り過ぎ、帰って行く。
そんな少女が足早に過ぎ去ったあとからは、
ほのかな石けんの香りがただよい――
「あ、おかえり、お姉ちゃん。早かったんだね」
玄関には花のような笑顔でわたしを迎える、
妹の姿があった。
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