生意気な。
花るんるん
第1話
それじゃ、困るんだよ。まったく、もう。前々から約束していたじゃないか。していた約束を忘れるなんて、一体、どういう了見だ。
「いや、あの」
いや、あの…じゃないよ、まったく。
世界は常に流転し続けている。ひと時も立ち止まらない。今、書いているつまらない日記だって、十年後には立派な史料になる。
だから、だ。
流転し続ける世界に抗するように、私達は約束をして、今を留めようとする。約束を忘れるということは、時の濁流に私達自身を放流することだ。私達自身を失うということだ。
そんなことはあっては、ならない。
あるもんか。
「ですから」
ですから…も、何もない。約束の時間まではあと、三分。厳しいことを言うようだが、どうしても果たしてもらうよ、約束を。
「分かっています」
ん? 何って言った? 分・か・っ・て・い・ま・す…と言ったように聞こえたが。たしかな発言は、たしかな実力に裏付けられてするものだと、それこそ分かって言っているよな。
「分かっていますから」
終わらない世界を終わらせる。そんな中二病の時代こそ、終わった。今は、約束をし、未来へ紡ぐ時代だ。日本の国際的な地位はじわじわと下がっていく。だからこそだ。つまらない虚勢を張らずに、現状を冷静に受け入れ、現状の中で「何をすれば、相対的にマシな結果を得られるか」を常に考え続けなければならない。みんな必死なんだ。それを。それを、分かっていますからの一言ですませられるか。
「あなたのそういう気持ちも、分かっていますから」
や、また言った。では、聞くが、どういう気持ちだ?
「終わらない世界を終わらせる。そんな中二病の時代こそ、終わった。今は、約束をし、未来へ紡ぐ時代だ。日本の国際的な地位はじわじわと下がっていく。だからこそだ。つまらない虚勢を張らずに、現状を冷静に受け入れ、現状の中で「何をすれば、相対的にマシな結果を得られるか」を常に考え続けなければならない。みんな必死なんだ。それを。それを、分かっていますからの一言ですませられるか」
……みんな必死なんだ。
「はい」
約束の時間まで、あとわずかだ。
「はい、はい」
それらを全て、君が解決すると?
一瞬で?
「既に果たしているんですよ、約束を」
どういうことだ?
「頼まれたものは、届けています」
受け取った覚えはない。
「思い出してください、ちゃんと。もうすぐ時間です。それまでにきっちり思い出してください。約束は未来への紡ぎなんですよね?」
生意気な。
生意気なことを言っていると思った。
ただ、感情論は置いといて、機械的な反駁もできないとも思った。忘れている可能性を否定できなかったから。世界は可能性にあふれている。この可能性だけ否定する道理はない。
「そんなこと? そんな程度のことで僕を責めていたんですか?」
いや、あの。
「いや、あの…じゃないよ、まったく。あなたが受け取ったことを思い出さないと、どこにしまったか思い出さないと、世界が終わるんだよ、まったく。世界存立の支柱を渡したんだから。……ああ。世界がグラつき始めている。もう崩れる。十、九、八…」
未来へ紡ぐ。
未来へ紡ぐ。
未来へ紡ぐ。
生意気な。 花るんるん @hiroP
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