第12話 最悪の指導

 私が大阪例会に行き出して1年が経った頃だ。みゆきちという若い新人女性が例会に参加するようになった。熱心な美人プレイヤーだった。

 それがある時、大御所、K野さんと対戦した。5ポイントマッチだ。スコアは覚えていない。

 ある局面で、K野さんがダブルをかけた。(点数を2倍にすること)みゆきちさんはテイクした。すると。K野さんが怒り出した。

「強い人がダブルをしちょうというのだから、おりないといけない。(1点負けでゲームを終わること)」

 私は耳を疑った。本気の指導なのか、テイクされて困ったのか、よくわからない。みゆきちさんは反論して、5分ほどの議論になった。K野氏は大御所である。誰も口を挟まなかった。

 K野氏は京すごろくの草野氏ではない。K野氏は背の高い老紳士である。その、老紳士が。

 怖い世界だ。そして私には、この怖さが新鮮だった。

 「教えてあげる」

 甘い誘いに乗ってはいけない。教えてくれる人は選ぼう。そういう私も、感想戦でいい加減なことを言ってばかりいたが悪意はなかった。

 K野氏の件の指導には悪意を感じずにいられなかった。強く印象に残っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る