第24話 転生者
先生?
この人もアドゥルスと同じく先生なのか。落ち着いた短い金髪。何より特徴的なのは、ちゃんと開いているのか分からない狐のような細い目だ。
身長はアドゥルスと同じくらいで服装は至ってシンプルだ。白いインナーに丈の短い赤褐色のシャツを羽織っている。シャツからは茶色のベルトが見え隠れしており、下は黒いズボンである。なんと言うか、爽やかな雰囲気のあるイケメン野郎である。
「リーゼちゃん。その魔法はあかんやろ」
「私ならちゃんと制御出来ました。邪魔しないでください」
「そら悪かったなぁ。けどアドゥルス先生にも同じこと言えるか?」
「うっ……」
あのリーゼを大人しくさせた。素直に凄いと思う。完全にアドゥルスの名前を使っただけだけど。
「さて、あと君もやで……え?」
カッコよく二人を止めたかと思ったが、何と細目の先生は巨人の拳にぷちっと潰されてしまった。
「ぎゃあああぁぁ!? ちょちょ……バジル君、ストップ! ストップ!」
「何で止めたんだ。もう少しで、勝てたかもしれねぇのに」
攻撃が終わり、ようやく沈んだ砂地から出てきたズタボロの先生はバジルに非難される。今にも食って掛かりそうなバジルは、言うまでもなく中断されたことに怒っていた。対して先生は対照的に笑って見せた。
「ただ競い合うだけならかまへんよ。勝負して強さを求めることも悪いとは思わへん。けどなぁ。これでも俺は先生の立場やから、危険な魔法を使うてまでこだわる勝負は、認めることはできへんで」
「それでも俺は……」
忠告を振り切り、バジルは戦いを再開させようといきり立つ。そんなバジルの肩を、先生は軽く掴む。
「ここらで止めとき。あんまり駄々こねるようなら、俺も手段を選ばんで」
「くっ……」
それが最終通告だというように、魔力なんか分からない俺にも、細目の男の雰囲気が変わったと分かる。バジルも勇む足を止め、影を引っ込めた。
「いい子や。怪我したやろうから医療室に行ってき。マロン先生には怒られるやろうけど、俺もついてったるわ。リーゼちゃんとルキナちゃんも来るか?」
「いいえ。これくらい大丈夫です」
「私も。それよりボロボロの服着替えたいし」
戦ったあとだというのに、二人の強気な発言に細目の男は瞠目どうもくしたようだ。
「さすが勇者と魔王の娘さんってとこやな。そういや最近会うてないけど、フェルさんとキングリィさんは元気しとる?」
「……はい。お父さんは今頃、トル―トの町でボランティアしてると思います」
「うちのパパはジュリスの森に遠征に行って、元気に討伐してる」
「そうか。相変わらずなようで何よりや。……ところで、何や知らん子がおるけど、誰なん?」
世間話もそこそこに、細目の男は俺の存在に気が付いたようだ。
「今日から入学してきた私の使い魔です」
「……まぁよう分からんけど、つまりは生徒ってことやな」
「いやいや使い魔なんかじゃあ……」
先生が生徒の人間関係問題を華麗にスルーしようとしている。教育委員会に訴えてやるぞ。何処にあるのか分からんけど。とりあえずそんな立場を自他ともに認めるわけにはいかない俺は、反射的に否定を試みる。が、ルキナの立ち位置と並んだ俺はガシッっと腕を掴まれる。当然ルキナにだ。その握力たるやちょっと痛い。
「な、何すんだ。それ痛いか……」
「ん?」
「……」
にっこりと笑みを浮かべるルキナ。俺は何も言えなくなり冷や汗が流れた。少しずつ強まる握る力に加えて、パリパリッと微弱な電気が発生していた。
「ん?」
ルキナは言っている。使い魔であることを否定するなどというオイタをするつもりなのかと。オイタしたらどうなるんだっけ? と。
「初めまして。ラルク・レッド・グリーヴスと言います。ルキナ様の使い魔をやってます」
俺は心の内で泣きながら自己紹介した。もう雷は受けたくない一心である。
「へぇ、そうなんや……くくっ」
おい、ちゃんとこっちを見ろ。手を添えてるけど全然笑い堪え切れてないからな。つーか明らかに事情分かってんだろ。助けろよ。マジで教育委員会に訴えてやる。
「俺はロベルト・B・クラウゼヴィッツって言うんや。ここの先生やってるから、まぁよろしゅうな。……変な喋り方してる言われるけど気にせんといてくれたら助かるわ」
「え……?」
「ほなまたな。行くで」
そう言い残してロベルトはきびすを返す。バジル、ヒューイ、マックスを連れて。
「リーゼ。次こそは俺が勝つからな」
「いつでも。私も負けないわよ」
「ヒューイ、大丈夫?」
「あぁ。悪いな」
妙な違和感が残る。何だろう。引っかかったのはロベルトの最後の言葉。変な喋り方をしている。いや、確かに標準語ではないけど、関西弁なだけだろ。漫画とかにもちょくちょくいるし。お笑い芸人にはむしろ多く見られるくらいだ。
リーゼとルキナに習って、俺も反対方向へときびすを返す。何かがしっくり来ない気がした。
いや、違う。ここは異世界のはずだろ。関西弁で話してること自体妙じゃないのか。違和感の正体に気付いた俺は即座に振り向く。見えるのは、バジル、ヒューイ、マックスの後ろ姿。そしてロベルト。
「……っ」
あまりにもタイミングが良すぎる。俺が再び振り向くの見越していたかのように、ロベルトもまた視線を寄越していた。そして、人差し指を口元に添える。
「まさか……」
あの先生。俺と同じ……。
もちろん他言する気はない。自分も同じ立場だ。だからこそ、アドゥルスやマーブルさんに続き、さらなる味方を得たような気がした。
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