第8話 先生と髭と入学希望
とドヤ顔で言われてもデカイ門しか見えない。アカデミーってことはもしかして学校なのか。
「つっても転生者だから分からんわな。物を教える機関ってとこか。それで分かるか?」
「何となくは。似たようなのはありましたし」
俺の言葉に満足したのか。アドゥルスは口元を緩めてじゃあ付いて来いと言う。こんな大きな門どうやって開けるんだと疑問だったが、何のことはない。アドゥルスが片手で押すと、扉はギギ……と音を鳴らしてあっさり開いた。意外に軽いのかもしれない。
中に入ると広場があった。大きな大きな広場で、細かく綺麗に舗装された道。真ん中には女性を象る噴水がある。よく見れば、背中から翼が生えていて天使なんだと分かった。そして広場からは奥に道が四本伸びている。
それがそれぞれ何処に続いているのかは分からないが、一番奥にあるものは何となく察しがついた。西洋風の建物がいくつも建っているのが見えるなか、何より目に飛び込んで来たのは遥か向こうで君臨する大きな城であった。
遊園地にでもありそうな大きな城。白くてドームのように面積を取る大きさであった。その近くでまた別に塔のような建物や、マンションのような綺麗に真四角な建物も並んでいた。はっきり言うなら、大学のキャンパスに近い。
けど、どれも本格的に西洋風な造りであること。その大きさ。また舗装された道以外には芝生が敷かれ、木々が見える。緑が多く、人工物と自然部分がうまいこと両立していてまるでゲーム世界のようだ。
「なにボーっとしてんんだ。置いてくぞ」
「あ、は、はい」
アドゥルスが俺の前で呼ぶ。まだ目的地には着いていなくて先に進むようだ。置いていかれるわけにもいかない。俺は急いで追いついた。
「けっこう広いからな。迷ったら大変だぞ」
「はぁ。それで、今度は何処に……」
「入学手続きだよ」
「は?」
速足になるアドルゥス。俺も自然と足を動かした。
「言ったろ。知らないなら学べばいい。調べればいい。理解すればいい。此処はこの世界においての教育最高機関と言ってもいいからな。まさにうってつけだ」
「また勉強するのか」
「何だ勉強嫌いか。けど、もうお前はこの世界で生きるしかないんだ。転生したというなら、この世界のルールで生きるしかない。それとも、また死ぬ方を選ぶか?」
「……!?」
死という言葉を聞いて、俺は言いようのない不安に駆られる。胸が締め付けられるようで、何故か脇腹が痛んだ。
死ぬ。自分が。また……。自分でも分からないくらいに体が震えた。俺はぶんぶんっと首を振ってアドゥルスに意志を伝えた。振り向きざまの質問で、返答を確認したアドゥルスは、ニィ……と歯を見せて笑った。
「んじゃあついてこい。俺が教えてやる。この世界のことも。この世界での生き方ってやつもな」
道中、何人かとすれ違った。アドゥルスと同じような羽織りやフードを着た人が多く、若い男の二人組や、年配の女性など色々である。ただその度、アドゥルスと知り合いなのか、挨拶されていた。
「あぁ、アドゥルス先生。おはようございます」
「おぉ、おはよう」
「おはようございます。アドゥルス先生」
「ん、おはようさん。お前もちゃんと挨拶しろよ」
「お、おはようございます」
「おはようございます」
本当にアドゥルス先生って呼ばれてるんだな。ってか、もしかして此処で偉い先生なんだろうか。周りとの感じで、俺は胡散臭いとも思っていた青年が、大物に思えて仕方なかった。
早歩きで奥へと突き進む俺たち。何処に向かってるのか尋ねると、着いて来れば分かると濁されてしまう。入学手続きと言ってたけど。何処を歩いているのかさえ俺には不明だが、じきに門あたりから見えていた城の前に到達する。そして何かに入ると、さらに進み続ける。
靴はそのままで床は赤い絨毯みたいなものが全部に敷かれていた。エントランスがあって内部はも城そのものだと言える。
奥に行くと、廊下ですら天井が高く掃除が大変そうだが、中は透き通るように綺麗で気持ちいいくらいだった。ようやくアドゥルスが足を止めると、そこは門にも負けないくらいに大きな茶色い両開きの扉だった。
ノックを三回すると、中から「はい」とこすれた声が聞こえた。
「アドゥルス・J・オブライアンです。入ります」
一言断りを入れてから、アドゥルスは扉に手をかけた。静かに開けて中へと入る。もちろん俺も続いた。
中は広い執務室のような構造だった。右の壁に大きな書棚。真ん中には来客用と思われる椅子が左右向かい合う様に並べられていた。
黒く高級そうなソファで、すごくふかふかしてそうだ。ソファの間には黒の低めのテーブルがあり、小さなベージュのクロスが敷かれていた。
左の壁は大きく開けられ、奥に部屋があるのが分かるが、詳細は立ち位置的によく見えない。左奥には本物か、人工のものか不明だが人の大きさほどの植木があった。
そして奥の壁には大きな額縁があり、マーブルさんよりもさらに凄い髭をした男性の写真が飾られてあった。その下で、足元を見せない大きな机に腰かけていたのは縁のない眼鏡をかけたおっさんである。
写真の人物とは違うようだ。掻き上げるようにセットされたグレーの髪。灰色のちょび髭で顎はすっきりしている。ダンディと思わせる容姿の男は一張羅を着ていて雰囲気があった。
「おはようございます。アドゥルス先生。今は講義の時間だったと思いますが、どうしたのでしょうか」
「講義に関しては代理で伝達させて自習にさせてます。俺の生徒は優秀ですから」
「そうですか。で、私には何の用でしょう?」
「入学希望者を連れて参りました。こいつです」
「この時期にねぇ……」
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