第6話 転生者と面談
腰掛けつつ、顔だけを向けていたじーさんが鋭い目線で口角をつり上げて笑う。よいしょと立ち上がると、アドゥルスの前まで歩く。
「ついにお前、男に走ったか」
「あぁ!? 今何つったこのクソジジイ。お望みとあらば今すぐ死ぬかコラ」
にやりと笑うじーさんに対して、アドゥルスは怒り心頭である。当然だが。
「冗談じゃ冗談。いわゆる賢者ジョークじゃて」
「次そんなジョーク言ってみろ。キメラの餌にしてやるからな」
全くだ。冗談でも俺を巻き込まないでくれ。
「分かった分かった。で? こいつが何じゃ?」
賢者のじーさんは軽く流した後、手に持った瓶をテーブルに置く。あれが酒なのかな。
「俺じゃ確証はねぇが、恐らく転生者だ」
「……これまた、厄介なもんを引き込んでくれるな」
「今となってはあんたしか頼れねぇからな」
俺のことだろうか。何だか厄介者扱いされてるのは分かる。ただ、俺が生きていた時とは違い、二人とも言葉とは裏腹に嫌そうな顔はしていない。まぁ仕方ないと言わんばかりに、笑みを浮かべていた。
「だからとりあえず見てやってくれ」
俺はアドゥルスに背中を軽く押され、じーさんの前に立たされる。少し伸びた頭髪は真っ白い。口の周りも白い髭で覆われていた。顎を隠すように伸びる白髭は、それなりの威厳があるようにも見える。何でこう、髭が凄い人って立派そうなんだろう。服装はターバンに近いと思う。白が貴重で首回りと腰あたりに緑の布が巻かれる。多分家着かな。足にはシンプルな黒い靴を履いていた。
「お主名前は?」
「ユウトです」
「そうか。儂はマーブル・クレイド。賢者なんかをやっておる。よろしくな」
「あ、はい」
にっこりと微笑むマーブルさん。俺は握手を求められたので、手を伸ばす。ありがたいことにけっこうフランクな人だ。賢者なんかと口にするあたり、権利を振りかざす人でもなさそうだ。
アドゥルスとマーブルさんは椅子を二つ運んできた。その一つに、俺に座れと命じる。向かい合うように並べられたもう一つに、マーブルさんが座った。
「これからいくつか質問する。分からなければ分からないで良い。だが絶対にわしの眼を見続けろ。良いと言うまでな」
「はい……」
最低限の説明が為される。これで何をしようとしているのか分からないが、既に事は始まってしまった。
「何処から来た?」
「トーキョー……です」
「此処を何処だと思っておる」
「あの世?」
「なるほど。では、魔法を知っているか?」
「一応聞いたことはあります」
「よろしい」
そんな質問が滞りなく続いた。俺がどんな答えを返しても、マーブルさんは驚かなかった。そうか。なるほど。それで。全てを受け入れてくれた。分からないという答えにも、さして問題ないようで、次の質問に移行した。
何分続いただろう。けっこうな問答を終えると、マーブルさんはようやく「うむ。分かった」と言って終了を宣言した。
「きつかったか?」
「いえ」
俺の後ろに控えていたアドゥルスに問われる。正直に苦痛でもなかったと答える。
「しかしお前此処をあの世だと思ってたのか?」
「えっと、確かなんですけど俺死んだはずで……」
アドゥルスとマーブルさんが顔を合わせる。それがどういう意味なのか俺には分からなかったが、マーブルさんが口を開いた。
「ま、間違いなく転生者じゃな」
「やっぱりか」
「あの……」
「心配しなくてよい。ちゃんと説明してやる。また死なないためにな」
マーブルさんの最後の言葉が気になった。どういう意味なんだ。俺が耳を傾けるとマーブルさんはそのまま、事のあらましを説明し始めた。
まず、ここはあの世ではないこと。恐らく俺がいた世界とは別の世界であり、魔法を使うのが当たり前の世界だと言う。そこまで聞くと、やっぱり俺は転生したのか。それで、二人は転生者と言っていたのかと納得する。
俺はここで一つの予測を立てた。一度死んで異世界に転生したというのなら、ネットで予習は欠かしていない。多分マーブルさんは、俺に勇者か魔王にでもなれと言うのだろう。間違いない。何せ魔法の世界だ。それできっと、さっきの女の子とのハーレムが待っているに違いない。死んで情けなくも泣いてしまった俺だが、そう考えると少しは転生出来て良かったんじゃないかと思う。
「つまり、お主は別の世界で一度死んだ転生者というわけじゃ。それで、お主に伝えなければならないことがある」
マーブルさんは続ける。そろそろ来るぞ。俺に、勇者か魔王になるんだと。どっちだろう。俺としてはどっちでも良いけどな。
勇者になって可愛い女の子をパーティに加えて、魔王をカッコよく倒すのもあり。
魔王になって可愛い女の子を侍らせて、勇者を一網打尽にするも良しだ。
「自分が転生者であることは絶対にバラすな」
「分かりました……えぇ?」
思っていたのと全然違うマーブルさんの言葉に俺は驚くしかなかった。
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