第3話 対面と天変地異と火炙り

「こんな低級魔法でくるなんて、馬鹿にしてるの?」


「べっつに。それに低級なのはそっちも同じでしょ。お望みとあらば、最近覚えた奴使うけど」





 話ながらだというのに、互いに攻撃の手は止めない。





 空から大きな雷が降り注いだと思ったら、桃髪の娘は高速で動いて分身しているように映る。雷の軌道を読んでいるのか全て避けきってしまう。そのまま距離を詰めながら、周りに火の玉をいくつも出現させた。





 手で掴めるくらいの大きさだが、ノーモーションでそれらの玉は銀髪の娘に向かって弾ける。銀髪の娘はにっと笑うと、再び手にバチバチと電光を纏う。





 また撃ち出すのかとも思ったけどそうじゃない。そのまま電光は大きくなり剣を象った。襲う火の玉を、その雷の剣で弾いて防いでいた。





 剣で護りを固め、あるいは避けて傷を負うことはない。だがその隙に、桃髪の娘が距離を詰めて攻撃を仕掛ける。同じく手に炎を纏うと、それは紅き炎の剣へと姿を変えていた。炎と雷の剣がぶつかり合う。





「最近何を覚えたって?」


「あれ? 気になるんだ。また私のほうが一歩先を行ったから嫉妬してるの?」


「ふざけないで。誰があんたに嫉妬なんかするもんか」





 互角に斬り合う二人だが、銀髪の娘の挑発に桃髪の娘は乗ったようだ。荒々しく斬り込んでゆく。とてつもないスピードで、斬撃を繰り出していた。上から、また横から攻める剣戟を、銀髪の娘は涼しい顔で受け止めていた。





「冗談だって。そんな本気になんないでよ」


「ふんっ」





 炎の剣が弾かれる。その隙に後退して距離を取る銀髪の女の子。だが、桃髪の娘は左手にも同じように剣を作り上げる。二刀流となると、後退した分以上に差を詰めて剣を振るった。





「いつの間にそんな……」


「強くなってるのはあんただけじゃないってことよ」





 戦況は大きく傾いた。銀髪の娘は表情を歪めて受けるのが精一杯のようだった。桃髪の娘の剣術は、舞うように、鮮やかに攻め立てた。





「くっ……」


「どうしたの。そんな程度じゃないでしょ。それとも、最近覚えたってのもただのハッタリだったのかしらね」


「言ってくれるんじゃない。なら見せたげる」





 銀髪の体が僅かに光る。その瞬間、桃髪の娘を蹴り飛ばした。そのあと、隙を見つけた銀髪の娘は空に舞い上がり、何と空中で立っていた。





「後悔しても知らないからね。これが私の、召喚魔法っ!」


「召喚って正気? そんな高度な魔法……」


「あは、ビビッてるビビッてる。でももう遅いからね」





 急に風が強くなる。張りつめた空気は気のせいじゃない。ぐらりと俺がバランスを崩したのは、僅かに地響きが起こったからだ。あれだけ青かった空は色を曇り模様に変え、今にも降ってきそうである。





「深淵の闇。雷鳴の咆哮。遠天より注ぎ、混濁に吞まれろ。光の礫よ、我が元に還れ。狂気を砕き裁きを下す。我は魂を穿つ者なり。来いシンティラ!」





 空にいる娘が詠唱みたいなものを叫ぶと、空が光る。そして、激しい音とともに凄い衝撃が襲った。俺は当然のように吹っ飛ばされ、目も開けてられなかった。とんでもない爆風に、俺は自分の体が転がっていることが分かるがどうしようもなかった。





「バカ。いくら何でもやりすぎでしょうが」





 全くだ。くそ。こっちまでとばっちりが来たぞ。





「けほっ、そりゃとっておきなんだから、派手になるでしょ」





 俺はうつ伏せの状態から顔を上げて、周りの様子を確かめた。けどこんだけ土埃が起きると何も見えない。とりあえず大した怪我もないようなので、俺はよろよろと立ち上がる。女の子二人はまだ何やら言い合っていた。声が近い分、どうやらそこまで飛ばされなかったらしい。





「で? その召喚したのは何処なの?」


「あ、あれ?」





 さっきまでなかったクレーターのような大穴があいていた。シュウゥと僅かに煙を上げていることから何かが落ちたのか。さっきの戦いの流れから考えると雷でも落ちたのかもしれないが、俺には詳しいことは分からなかった。





「え?」





 完全に土埃が晴れると、俺は驚愕する。何と、ほぼ目の前に桃髪の女の子がいたのだ。





「あ、あんた誰?」


「え? お、俺は……あれ、誰だっけ?」


「私が知るか」





 妙だ。名前くらい憶えてるだろう。えっとそうだ。確かユウトって名前だ。あれ、でもその前にも何かあったはずなんだが思い出せない。





「は? 誰それ」





 空にいた銀髪の娘も、俺に気付いたらしく俺の目の前にまで降りてきた。





「怪しい奴ね」





 桃髪の娘は容赦なく炎を繰り出していた。マジかよ。





「ちょ、ちょっと待って。俺ユウトって名前だから」


「何でここに?」


「さ、さぁ」





 逆にこっちが聞きたいくらいだ。しかし、目の前の女の子の眼差しがきつくなる。





「何処から来たの?」


「えっと、トーキョー……」





 俺は朧げ気な記憶を元に答える。でも、炎を纏った女の子はぷるぷると震えて、さらに炎を膨れ上げる。





「よぉし分かった。答える気がないようならこの特大の炎をおみまいしてあげる」





 えぇ?


 何でだよ。ちゃんと俺答えたよ。こんなの喰らったら俺死んじゃうよ。あ、いやもともと死んでるんだっけ。どっちにしろ、痛いのも熱いのも嫌だった俺は、もう一人の銀髪の女の子に助けを求めた。





「た、助けてください」


「あ、そっか。じゃあ君が召喚された奴かな。ほら、代わりに戦って」


「えぇ?」





 それだけは絶対に違う。無理矢理まわれ右された俺の眼前には、目が据わった女の子と燃え盛る紅い炎。いやもう既に熱いのが分かる。だというのに、後ろから戦えとぐいぐい押されてしまう。ちょっ、ま、待って。





「ぎゃああああぁぁぁ!?」





 俺、火炙りの刑に処されました。

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