剣と青年

おさるなもんきち

剣と青年

すっかりさび付いてはいるが、成人男性の背丈ほどある幅広の巨大な剣と思われる鉄の塊がありました。


名もなき剣ではあるが、異世界人の勇者がすべての役目を終えた時、己の剣を地面に差し、元の世界に戻っていったという伝承があるらしい。


ただ残念なことに「俺の魂の半分をこの剣に残していく」という異世界人の言葉は誰にも届いておらず・・・剣は徐々にさび付き、異世界人の存在も言葉も全てさび付き忘れ去られた・・・



時は経ち・・・




数年・・・





数十年・・・・



すでに人から忘れ去られた剣は、とうとうただの鉄くずとして、とある武器屋に引き取られた。


武器屋も、ただの鉄くずとして処理をしようとしたが、どうしても割れず壊れず、ただの邪魔な鉄くずとして武器屋の端に居場所を定めることになってしまった。



そんな鉄くずになってしまった剣に光を与えたのは、とある鍛冶見習いの青年であった。


隅に置いてあった鉄くずを剣として丁寧に扱い、自分の持てる技術を用いて、徐々に徐々に鉄くずを剣に変えていく。


実力が足りないとわかると、国をめぐって鍛冶の匠に師事を仰ぎ、自分の腕を上げながら少しずつ、少しづつ・・・鉄くずの剣を、元の姿へ戻していくのであった。


数年の時を経て、とうとう鍛冶見習いの青年は、剣に最後の命を吹き込み、剣は完全にその姿を取り戻した。


それと同時に鍛冶見習いの青年は、誰からも認められる鍛冶職人になった。




ただ、青年の背中では相変わらず剣が背負われているのだ。


武骨で幅が広く、長さも青年の背ほどにあるその剣は、誰にも持てないだろうと思われたが、鍛冶職人の青年は軽々その剣を持ち、日々鍛冶職人として、様々な武器や防具に命を吹き込んでいく日々を送っていた。


背に担いだ剣を見て、わが剣と求める男は多かったが、青年がその剣を手渡すと、剣の重さに耐えきれず倒れ込む者ばかりであったので、青年と剣は日々一緒に行動をしていた。



ある時、青年が暮らしている国の王が、


「この国に害を及ぼす龍を退治する剣を作ってまいれ」


とお触れを出し、多くの鍛冶職人が己の力を試すため、様々な剣を打ち込み、王へ献上する。


どれも素晴らしい装飾を凝らした、切れ味も鋭い綺麗な剣だが、鍛冶職人の青年は背に背負った剣を王に向け「これぞ竜を退治する唯一無二の剣であります」と献上しようとしたが・・・


他の職人に作られた件に比べ、武骨な剣を目にした王は「そんな鉄くずで竜を打ち倒せるものなら、そこらへんの鉄くずでも竜は倒せるであろう」と、鍛冶職人の青年をあざ笑い、国から追放してしまう。


「嗚呼、この国の王は真の剣を知らぬ愚か者だ・・・この国の未来は決まった・・・」

と言葉を残し、青年は剣と共に国を出ていくのであった。


旅の途中、鍛冶職人の青年の耳に国が龍によって滅ぼされたことが入ると、青年は一筋の涙を流し、また旅を続ける。


龍は国を滅ぼし、人をくらいつくし、破壊尽くし・・・それを満足としないと、周りの街や村を食らいつくし破壊を尽くしていく。


旅を続けていた鍛冶職人がその龍にあったのは、それから10の日が経った頃である。


とある村で、農具などの修理を行っている青年の耳に「龍来襲」と言葉が聞こえ、青年は背中の剣を構え、堂々と龍に向かって歩いていく。


静かに歩く青年を目に、龍は灼熱の炎を吐き出すも、炎は青年が振るった剣の一振りにより消え、その様子に慌てた龍の巨大な尻尾の一振りは、剣の切っ先により尻尾が吹き飛ぶことでなくなり・・・


噛みつこうとした龍の頭は、気が付けば胴体と離れて ずしん という音とともに地面に落ちていたのだ。





「勇者!勇者!」とたたえる群衆の中、鍛冶職人は一言。


「私は勇者ではありません。この龍はこの剣によって倒されただけ、私は少しだけ力をお借りしたのみです」


と言い残し、再び旅を続けていく・・・



その旅の中、青年は一人の少年と出会い、旅は二人旅になる。


孤児である少年は青年から、様々なものを学び、そして成長していく・・・



ある日、青年と少年は別れ、それぞれ違う道を歩き出した。


ただ少し違うのは、青年の手には剣はなかったことである。



その事に気が付いたとある男が、剣のありかを尋ねると、青年は一言・・・


「剣は元の場所に戻った。私の役目は終わったのだ」と、笑って剣を打ち直すのであった。




その後、龍によって滅ぼされ、魔物の巣窟になっていた、かつて王が納めていた国は、一人の少年により魔物から解放され、少年は国を治めることになったのだ。


王として即位をした夜。

少年は剣と向き合っていた。


「残念ではありますが、私は貴方に認められる男ではなかったようです」


そう言うと、少年は片膝をつき、剣を頭上に掲げ「ありがとう、剣よ」と言葉を発す。


その瞬間、剣は光を放ち、少年の手から離れ、そして消えていく。




次の瞬間、剣は再び鍛冶職人の青年に手に戻り、青年は残念そうにため息をつく。


「私は勇者でもありません。力なきただの鍛冶職人ですよ」


そう剣につぶやく青年は苦笑いをしながら、旅支度を整える。


「貴方のご主人様はどこにいらっしゃるのでしょうね?」


そう呟く鍛冶職人に、剣はカタカタ動いたとか動かないとか・・・




名もなき鍛冶職人の旅はまだ終わらないようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

剣と青年 おさるなもんきち @osaruna3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ