第3話「紅い家」
土曜になった。朝からナツキは溜息をついた。
約束通り、宗藤が家に迎えにきた。後部座席に乗ると隣には刹那が座っていた。
「お、失礼は承知でいうけど女の子だな」
「好きでなってるわけじゃありません」
「知っているよ。と刹那あんまし調子のるとブレーキかけた時怪我するからなー」
車が動き出す。
「それでもなかなか不思議だな。俺は心理カウンセラーって言ってるが、大半は異能の子供の能力制御やカウンセリングばっかなんだ。神崎君みたいなタイプは初めてだ」
「体の性別が変わるのがですか?」
異能は個人個人違うものだが、似た異能はいくつもある。
「違う。体の性別や骨格、遺伝子レベルで変化する異能はある。変化の上手い下手はあれど、無意識、本人の意思と関係なくっていうのが俺が知る限りは初めてだ。それって周期的な変化ではないんだろ?」
「はい。勝手に変わります。医者も首をかしげてました。こうゆう場合精神状態が影響するらしいんですけど、僕の場合は違うみたいで」
「というと」
「寝てる時にも変わったりするので」
「……君は幼少期に女の子として育てられたり、女の子になりたいと思ったことはあるかい?」
「覚えてる限りはないです」
「そっか。でもまぁ、どうこうできるタイプの異能じゃないな残念ながら」
持病のようなものだとあきらめている。
「大丈夫?」
「ありがと。刹那ちゃん、大丈夫だよ」
「今日はうちの代表と会って貰おうと思ってな」
連れてこられたのは普通のオフィスビル。
話を聞くと、一部のフロアじゃなく、ビル丸ごと組織のものだそうだ。
「すごいですね、充実度が」
「あぁ。ここは『異能者』のために作った建物だからな。造りも頑丈だし、何かあった時は篭城だってできるぜ」
エレベーターで途中の階で降りて、後は階段を上がり、目的の部屋に着く。
「ここの部屋だ。俺は二階で待ってる。二階は寮というかマンションみたくメンバーの住居スペースになってるんだ。部屋番号はこれだ。まぁ、横にネームプレートがあるから分からなくなったらそこを見てくれ」
「ひ、一人ですか?」
初対面の相手といきなり二人きり、しかも恐らく年上と。かなり厳しいものがある。
「別に緊張することはないさ。所長は優しい人だぜ」
宗藤はドアをノックする。反応があり、宗藤はドアを開ける。
ナツキはあきらめて部屋の中に入る。
部屋は応接間のようだ。
中には和装の男性が笑顔で立っていた。
「やぁ、初めまして。私は柳原龍士(やなぎはら りゅうし)。君のことは宗藤君から聞いているよ。とりあえず座ってくれ」
「は、初めまして神崎ナツキです」
言われるがままナツキはソファに座る。とてつもなく座り心地の良いソファーだ。
「まずは報告のあった情報に間違いがないか質問するから答えて欲しい。もちろん、答えたくないのは答えなくていいからね」
「は、はい」
「君は高校生だそうだね。いつから異能が?」
「小さいころであまり記憶がないんですけど、幼稚園かそれくらいの時からです」
異能の発現は子供の時が大半だそうだ。
「ここ近辺で子供は君以外聞かないから、大変だったろう」
「もう慣れました」
「……しょうがない物だと思ってます。でも暴走したり、誰かを傷つけたりする恐れはないから幸いなのかなーって」
「異能犯罪者をどう思う?」
「暴走する事故は仕方ないと思いますけど好き勝手するのはよくないと思います」
「もし、これから先君の異能が君自身の意志で好きに使えるようになったらどうしたい?」
「体が変化しないようにします」
「ほぉ、利用ではなく固定か。それはどうして?」
「異能ってだけでみんなが驚くし気味悪がります。それに加えて勝手に性別が変わるんです。トイレだってプールだって気を使います。それに女性の体っていろいろ大変なんですよ?」
ナツキは異能が発現するまでは男性の体で、男性の心であった。
「そうか、デリカシーのない質問をしてしまったね。申し訳ない。確かに普通両方は経験できないことだね。君に大切な人はいるかい?」
「……はい、います」
「そうか、ありがとう。改めてようこそ紅い家にナツキ君」
「紅い家?」
「うちの名前だ。 これは設立者達がつけた名前で私は関与してないから何故そんな名前なんですかといわれても困るかな。君の第二の家、『異能者』が何も気にしないで過ごせる場所だと思ってくれてかまわない。ここでのルールを守っている限り私達が全力で守ることを約束しよう」
「はい、よろしくお願いします」
「あ、そうだ。最後に一ついだけいいかな?君は正式に紅い家の所属になるわけだけど、それを言いふらすようなことは控えて欲しい」
「言うつもりはないですが、どうしてですか?」
「私達は普段は一般人、民間の企業からの依頼をこなしているが、政府や警察などからも他の組織団体より多く依頼がくる。当然相手は犯罪を犯した異能者や過激思想団体などだ。そういった連中からすれば仲間を逮捕した敵、一般人は下等生物、そんな下等生物に従う奴隷だなんて蔑んだり恨んだりしているやつもいる」
「……」
「君個人には怨みも関係もないが人物が、紅い家のメンバーだから何かしてやれとよからぬことを企む可能性もあるからね。もちろん全力で守るけどね」
現在三つ巴のような対立関係だ。
過激思想の『異能者』達は一般人と一般人に協力する『異能者』を敵とする。
過激思想の一般人は『異能者』を敵とする。
一般人に協力する『異能者』は両方から攻撃される。
「宗藤君から聞いてるかと思うけど、君には『異能者』を捕まえろ、戦闘時に協力しろなんてことはしない。あくまで情報収集のみだ」
「はい、そこは宗藤さんに聞きました」
ここに向かう車内で聞いた。
ナツキにして欲しいのは学校内での情報収集。学校関係者が犯罪組織と繋がりがある可能性があるそうだ。
とある料理教室。生徒がせっせと料理を作っていた。
「あら、どうしたの?気持ちが上の空って感じじゃない?」
「そうですか?」
「あれかしら?あの例の子にデートでも誘ったけど断られて今日ここきたんでしょ」
「べ、別にデートってわけじゃないですけど、遊ぼって連絡したら用事があるって」
「あーかわいい。若いっていわね」
「若いって確かにそうですけど、そういえば先生いくつなんですか」
「あらー乙女に年齢を聞くのはマナー違反よ茜ちゃん」
茜は休日料理教室に通っている。
講師は外人のセバスチャン。心は乙女だが、れっきとした成人男性だ肉体は。
昔は有名なコックだったらしいが引退して細々と料理教室を開いているそうだ。
「変なことに巻き込まれてないといいんですけど」
「変なこと?」
「乙女の勘です」
「あら、大丈夫よ」
「何でですか?」
「だってその時は茜ちゃんがいるでしょ?だったら安心よ。その子は幸せ者ね」
セバスチャンはあ茜から幼馴染が『異能者』でよくいじめに会うということだけは聞いている。
「それより、スープそろそろじゃない?」
「あ、」
茜は慌てて火を止める。
「くしゅん」
「おーい大丈夫か?」
「大丈夫です。すいません」
柳原所長と話が終わり、ナツキは宗藤の部屋に訪れていた。
「どうだった?所長は」
「優しそうな人でした」
「そうか。そういえば、君の異能を知っているのは俺と刹那と所長とこの間居合わせたばーさんの四人だから安心してくれ」
ばーさんとは恐らくこの間の女性のことだろう。しかし、宗藤と同世代のように見えたが。
「なるべく言わない方がいいんですか?」
「自分から自分の異能を言う分にはいいが、他人のを他人に言うのはしないほうがいいな」
当然のことだ。
「もちろん、言いませんよ。厄介なだけですから」
用が済んだのでナツキは家まで送ってもらった。
翌日家でごろごろするつもりだったが茜が家に遊びに来た。
「そういえば、昨日はどこに行ってたの?」
「えーどこだっていいでしょ」
昨日茜から連絡があったが宗藤の先約があったため断った。
異能のことなんで茜には言わないでおこうと判断した。
「何よ、やましいことあんの?」
「や、やましいって別に何でもないよ」
「……紅い家」
「どうして?」
ナツキは驚く。
「ナツキママに聞いたのよ」
「あー。一応だけど茜だから仕方ないけど、他の人には言わないでね」
「言うわけないでしょ。それより大丈夫なの?警察の協力したりして危なくない?」
「大丈夫だよ。そういったことは僕は一切しないって。あくまで学校で情報しゅ……あ」
喋っている途中で気づき口を閉ざすが後の祭りだ。
「学校で何するって?」
「な、何でもないよ。言い間違い」
「なわけないでしょ」
茜はナツキの首を腕でしめる。もちろん本気ではなくじゃれ合い程度である。
「分かった、分かったから離して」
ナツキは宗藤から頼まれたことを説明した。
「それって本当なの?」
「それが分からないから調べるんだよ」
学校内や学生のことを外部の人間が調べるのはかなり大変なことらしい。
そこで白羽の矢が立ったのがナツキであった。
「じゃ、私も手伝う」
「いいよ、僕の役割なんだし」
「クラスとか行けるの?私がそれとなく、聞いてみるわよ」
「……別に調べればいいし」
「じゃ、私が話聞いて、それ以外の調査をナツキがする。完璧な布陣ね」
「調査のこと知られたらだめなんだよ?」
「大丈夫よ。あんた事件に関与してない?なんて聞いたりしないもの」
「茜はうっかりしてるから心配だなー」
今勢いで漏らしたナツキが言えたことではないが。
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