僕と私が交わる果てに

紅羽夜

第1話「夏の暑い日」

 上空から照りつける暑さ。それを弾き返すかのように地面からほとばしる暑さ。灼熱の中、学生は学校に向かう。


「あ、大丈夫?」


 少年の前で少女が転びそうになり、支えた。

 少女はまる暑さなど感じないような着物を着こんでいた。


「……」


 少女は驚いた表情で固まり、少年を凝視する。


「君大丈夫か!」


 中年男性が血相を変えて走ってやってきた。


「僕ですか?大丈夫ですけど」

「失礼……君は男か?」

「男です」

「そしたら『異能者』か?」

「すいません、学校なんで失礼します」


 『異能者』が世界で出現したのはおおよそ百年程度前のことだ。

 『異能者』とは名前の通り、科学では証明することができない能力を発現、駆使できる人間の総称だ。

 百年前といえば、第三次世界大戦が勃発した頃だ。『異能者』の対応に各国は追われ戦争どころではなくなり、戦争が終結し今に至る。


「おはようございます」


 学生は保健室に入る。学生は保健室登校している。

 戦争が終わり、平和になった現在『異能者』は差別されたり、恐怖されることが多い。

 『異能者』が暴走し命を落とす。『異能者』はその異能を悪用し犯罪者となるケースも多い。

 そういったこともあり過激主張になると、『異能者』は殺すべきといものもある。

 周りに危険を与える可能性のある『異能者』専用の施設で生活し、異能をコントロールする訓練をする。

 学生は鞄からノートを取りだし自習を始める。


「やぁ、こんにちは。また会ったな」

「……さっきの!どうしてここに?ここは学校ですよ?」


 保健室に入ってきたのは先ほどの男性だ。


「俺は宗藤(すどう)だ。本日付けで赴任することになった。須田先生に聞いてないのか?」

「……聞いてます」


 須田先生とは養護教諭だ。

 須田先生が産休のためその期間の間別の先生がやってくると聞いていた。


「これでも一応心理カウンセラーやっていてな。本業はこっちだが養護教論の資格を持ってる」

「そうなんですか。僕は神崎ナツキです。サボりや病気じゃないです」


 ナツキは『異能者』である。異能のせいで小さい頃からいじめられたりと事情があるため特例で保健室で勉強することが許されてる。


「やっぱりな」


 宗藤は一人で納得した。


「あ、さっきの」


 宗藤で見えなかったが後ろには先ほどの着物の少女がいた。


「はい?」


 ナツキは驚いた。少女はさも当たり前かのように、座っているナツキの膝の上に座った。


「な……今日は槍でも降ってくるのか?改めて確認だが、 神崎君は『異能者』だな?」

「聞いてないんですか?」

「『異能者』がいるということは聞いてるが、さっき資料を渡されたばかりでな」


 名前や異能についてはまだ知らない。隠す意味はないので正直に伝える。


「……体の性別が変わるんです」

「水をかけると女になるのか?」

「……はい?」 


 宗藤の言っている意味が理解できず、聞き返す。

 ナツキが知らないだけで、世のどこかには水がかかると性別が変わる『異能者』が存在するのだろうか。


「いや、すまない。聞かなかったことにしてくれ。安心してくれ、俺もそしてこの子も『異能者』だ」


 これにはナツキも驚いた。

 生まれて初めて自分以外の『異能者』と会ったからだ。


「そういうこともあって代理を頼まれたんだ。こいつは刹那。簡単に説明すると、刹那に対して男性が触れると勝手に発動する異能でな。だから君に男かまず聞いたわけだ」 

「なるほど、僕は男性でも女性でもあるから発動しなかったということですか?」

「肯定はできないが、状況を見る限りそうだな」


 宗藤は先生の机に荷物を置き、ボールペンを取りだす。


「俺の異能は見せたほうが早い」


 刹那を膝からどけ宗藤の近くに寄る。

 左手でボールペンを持ち真下に右手を出す。そして、右手の手の平にボールペンを落とす。


「え?」


 落下したボールペンは右の手の平に落ちた。その瞬間ボールペンは真上に飛んだ。右手でボールペンを弾いたりしていない。右手は少しも動いていないからだ。


「簡単に言うと俺は触れた物の向きを変える異能だ」

「そんな異能もあるんですね」


 異能はさまざまなものがあるが、ある程度に分類されている。

 一番多いのが自分自身の体に変化が生じるタイプ。

 肉食動物のように人間の機能を超えて早く走れる。体を金属のように硬化するなど。

 『異能者』の中でも一番犯罪に走りやすいのがこのタイプだ。それこそ、ただの学生の喧嘩でも拳が金属より硬ければ被害は計り知れない。

 次に多いのが自然現象を改変、介入する異能だ。


「まぁな、って刹那?どこだ」

「あれ、いない」


 ナツキが振り返ると刹那の姿は無かった。


「すまないが、一緒に探してくれるか?あいつに男子生徒が触りでもしたら大惨事だ。俺は職員室、職員玄関に戻って探す」


 宗藤は慌てて、端末を操作し誰か連絡を取る。

 ナツキは保健室から出て、体育館裏に向かう。

 体育館裏に繋がり体育館に入れる通路があるからだ。


「迷子か?てか暑くないのか?」


 声のするほうに行ってみると上級生が三人ほどいた。

 体育の授業をサボっているのだろうか。

 刹那は探しにきたナツキに気づくとナツキの方に戻ってきた。


「おい、無視すんなよ!」


 先輩が刹那の肩を後ろから掴んだ。

 その瞬間、刹那の影がぶるぶると震えて動いたように見えた。

 影は突如生き物ように動き、立体のように飛び出して先輩の腕に振れた。

 影が離れると同時に、ボトと腕が地面に落ちた。

 映画でしか見たことのないよな血の量が地面に広がる。


「遅かったか」


 宗藤がやって来た。隣にはナツキの知らない女性がいた。


「まったく、初日そうそうやってくれるね」


 女性は倒れている先輩の腕をくっつけて触る。

 宗藤が刹那の頭に手を置く動いていた影が引っ込みただの影に戻った。


「早くしな、一分以内だ」

「分った」


 宗藤が女性の手を握る。すると、先輩の出血が止まり見た限り腕が繋がり、傷跡も見られない。


「す、すごい」


 恐らく『異能者』なのだろう。


「あら、キミ男の子?ずいぶん綺麗だね」

「男だろ。制服のズボン見れば分かるだろ」

「あらま珍しい。刹那が懐くなんて」

「性別が変化する異能だそうだ」

「あら、尚珍しいわね。いいわ」

「ばあさんの癖にガキに欲情するって、痛っ」


 女性は宗藤の肘をつねる。


「ところで、誰ですか?」

「俺の仲間だとりあえず。見てもらった通り『異能者』のな。保健室に戻ろうか。ここは任せたぞ」

「たくしょうがないね」

「刹那勝手に出歩くなよ?俺の手が届く範囲にいろ」


 刹那はこくとうなずく。


「刹那ちゃんから影が出たと思ったら今度は宗藤さんが触ったら影みたいの引っ込みましたけどあれって何でですか?」

「それも説明する。とりあえず、保健室に戻ろう」

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