惜敗
明通 蛍雪
第1話
歓声が上がる。反対からは悲鳴が上がる。
今度は声の種類が入れ替わる。
お互いに二点ずつ得点し合い舞台は延長戦へ。
既に俺のチームの皆は疲労が体に現れている。相手のチームも疲れているだろうが俺たちよりも余裕がある。
サッカー地区予選第三試合。ベスト8をかけた試合はこれまでにないほどの盛り上がりを見せていた。
俺たちが戦っているのは全国での優勝経験もある強豪校。対して俺たちはサッカー部創立から六年目。まだまだ発展途上のチームだが全国への挑戦権は決して遠くない。
足がつる、塩分と水分を補給し皆はコートの中へと戻っていく。延長戦にハーフタイムはない。試合が始まれば後は死力を尽くして走るのみ。
三年の俺はこの試合で負ければ引退だ。外から見ているだけなのが少し悔しいが、今はチームの勝利を願い祈る。
審判の笛が空高く響き渡り試合が始まる。
お互い一歩も引かない攻防に誰もが固唾を飲んで見守る。観客も応援団すらも息をひそめて結果を見守る。
シュートが外れればたちまち歓声と落胆の声が上がる。それをキッカケに、また応援団が動き出す。
目前まで見えている全国の舞台。それを手に入れるために今まで努力してきた。
強豪としての意地が相手から感じる。
お互いの意思は強く、体は限界のはずなのに走り続ける。
ボールを追いかけ、体をぶつけ、声を張り上げる。
後半に入ってもスコアに動きはなく、残り時間は五分を切った。
PK戦に縺れ込めば勝機がある。ベンチや観客がそう思う中、コートの上の選手たちは違った。懸命にゴールを目指し得点のチャンスを作る。この三分で必ず決着をつける。そんな意地なようなものを感じた。
それは相手も同じようで誰も手を抜く者はいない。
俺たちのチームの絶好のチャンス。裏に抜け出すミッドフィルダーにボールが渡る。ゴールまでは少し遠いがそのまま自分で運んでいく。
放たれたシュートは綺麗な軌道を描くがキーパーに防がれてしまう。
キーパーからのロングボールで今度は俺たちのチームがピンチを迎える。
緊張しつつも結果を見守ることしかできない。
ゴール前に蹴り込まれるボールはディフェンスによって跳ね返される。ベンチからは安堵の声が漏れるが、すぐに展開が変わる。
いつもよりも長く感じる三分。早く鳴れと審判を見るがまだ笛を吹く用意はしていない。
ジリジリと迫る終わりに、しかし無情にも別の笛が鳴り観客席から歓声が上がる。
失点だ。残り時間はほとんどない。絶望的な状況に誰もが下を向く。
「まだだ!取り返すぞ!」
コートから声が上がる。まだ戦いは終わっていない。それを誰よりもりかいしていたのは、中で戦っている皆だった。
あとに引けない俺たちは、必死で攻める。相手は攻撃を捨て守りに入った。手元の時計ではもう時間は過ぎている。おそらくこれが最後の攻撃になる。
誰のシュートか。そんなことはどうでもよかった。放たれたシュートはゴールを掠め後方へと逸れていく。
ピッ、ピッ、ピーーッ‼︎
そこで試合終了の笛が鳴る。歓声と落胆。二つの声が混じる。
悔しさに涙を流す皆に、かける言葉が見当たらない。
監督とコーチからそれぞれが握手をし観客席に挨拶に行く。
あいさつが終われば後は帰るだけ。
俺の、俺たちの三年の部活は今日、終わりを迎えた。
惜敗 明通 蛍雪 @azukimochi
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