アマエビくん最後の3分間修行で敵討ち
明石竜
第1話
日本のどこかにある浜辺の海の中に、アマエビさん一家が楽しく暮らしていました。
けれどある日、お父さんエビが天敵のタコさんに食べられてしまったのです。
深い悲しみにくれていた子供アマエビさんは、天敵のタコさんを倒して敵を
討ってやるんだと誓いました。
それから数日後のこと、アマエビさんのお友達のカニさんから、海の生き物さんたちによるお相撲大会があるよ、と教えてくれました。
アマエビさんはそれに出場することを決心しました。けれどもお母さんエビさんは心配で、心配でたまりませんでした。
他の出場者はイカ、イソギンチャク、サンマ、そして、あのアマエビさんのお父さんを食べたタコさんです。どれもアマエビさんにとって手強い相手でした。
カニさんはアマエビさんに勝つための秘策を教えてくれました。
「アマエビくん、きみはこのままでは絶対勝てないよ。きみが勝つ唯一の方法は、
衣っていう最強の黄金の鎧を身に着けるしかないんだ。ボクがその方法を教えてあげる。けれど、そのためには厳しい修行が必要なんだ」
「ボク、お父さんの敵を討つためなら、どんなつらい修行にも耐えることが出来ます」
アマエビさんは強く誓いました。
「よし、分かった。ボクについてきて」
カニさんは、アマエビさんを自分のおうちへと招待しました。
「アマエビくん、この煮えたぎるお湯を見てごらん。これでもとても熱いけれど、
最強の鎧を身に着けるには、これよりももっともっと熱い、てんぷら油の中に殻を脱いで三分間は入らなければならないんだ」
アマエビさんは、驚きました。そしてしばらく悩みました。
「それでも、ボクはお父さんの敵を討つためにやります」
そしてついに決意したのです。
カニさんは、アマエビさんの服代わりでもある殻をそっと脱がして、小麦粉をまぶしてくれました。
「アマエビくん、この小麦粉は、そのままではさっき着ていた殻よりもひ弱だけれど、熱々の油の中に入れることで最強の鎧になるんだよ」
アマエビさんは、勇気を振り絞って熱々の油の中に入りました。
「あついっ、あついよう!」
「頑張れ、頑張れ。アマエビくん」
カニさんは、苦しむアマエビさんを必死に励まします。
真っ白な小麦粉は徐々に、徐々に、黄色くなってゆき、輝きを増していきます。
アマエビさんが油の中に入ってから三分後。
「やったあ。できたぞ!」
「よく頑張ったね、アマエビくん。これできみも立派なお相撲さんだよ」
ついにアマエビさんは熱さに耐えて、耐えて、最強の鎧である黄金の衣を身に着けることが出来ました。
アマエビさんだけでなく、カニさんもとても喜んでいました。
それから一週間が経ちました。いよいよお相撲大会当日がやって来たのです。
観客席にはカニさんとお母さんエビ、そのほかサザエさんやカツオさんやアナゴさんなどなど大勢の海の生き物さんたちがいます。
アマエビさんの最初の対戦相手はイソギンチャクさんでした。
ヤドカリさんが行司さんをつとめます。
「マッタナシ。ハッケヨーイ、ノコッタ!」
ヤドカリさんの掛け声とともに、アマエビさんはイソギンチャクさんの体を懸命に押し始めました。
けれどもイソギンチャクさんの体は一向に動きません。
「アマエビくん、触手に捕まえられたら終わりだ。きみには後ろに逃げる習性、引き技があるじゃないか。押し切れなかったらきみの後ろ側へ身を反るんだ」
アマエビさんはカニさんに言われたとおり、後ろへ逃げました。するとイソギンチャクさんはバランスを崩し、前につんのめりました。
「ただいまの勝負、引き落としでアマエビ関の勝ち!」
ヤドカリさんは、決まり手を告げました。
2回戦の対戦相手はサンマさんです。今度は、アマエビさんはサンマさんのお腹をつかみ、一気の寄りで土俵の外へ出しました。またアマエビさんの勝ちです。
「アマエビくん、きみがこんなに強いとは思わなかったよ」
サンマさんは驚きを隠せない様子でした。
3回戦の対戦相手はイカさんです。墨を吹きかけられはしましたが、それでもめげず何度も何度突進を繰り返して、突き出しでイカさんに勝つことが出来ました。
またまたアマエビさんの勝ちです。これで三連勝!
いよいよ最後の相手、アマエビさんのお父さんを食べた天敵のタコさんが登場します。
果たしてお父さんの敵は討てるのでしょうか。
「ハッケヨーイ、ノコッタ」
ヤドカリさんの掛け声とともに、両者の体が激しくぶつかります。
アマエビさんもタコさんも激しく押し合っています。タコさんには八本足を使っての投げ技もあります。油断はできません。
「頑張れ、頑張れ、アマエビくん」
カニさんも固唾を呑んで一生懸命アマエビさんを応援します。
「アマエビくん、力弱いなあ」
タコさんはにやにや笑います。
「まっ、負けるもんか!」
アマエビさんは懸命に歯を食いしばります。
タコさんの力はとても強く、アマエビさんは瞬く間に土俵際まで追い込まれてしました。衝撃からか、黄金の鎧まで外れてしまいました。
「アマエビくん、ボクの勝ちだね」
タコさんはそう言って、アマエビさんを土俵の外へ軽々と押し出しました。
この瞬間、アマエビさんの負けが決定してしまいました。何も出来ず、完敗でした。
アマエビくんも、ヤドカリさんも、そしてお母さんエビもとても悲しい表情をしています。
ところが、
「ただいまの勝負、勇み足でアマエビ関の勝ち! タコくん、きみの足の方が先に土俵の外へ出てたよ」
ヤドカリさんは、にこにこしながら告げました。
なんと、アマエビさんの優勝なのです。
「うそーっ!!!」
アマエビさんはとても驚きます。
「そんなぁ~っ」
タコさんはとても悔しがります。長すぎる足が、かえって墓穴を掘ってしまったのです。
パチパチパチパチパチパチパチ♪
「おめでとう! アマエビ君」
「小さい体でよく頑張った! 感動した!」
「アマエビくんは強さも味も横綱だね」
観客席からは拍手喝采。
「ほんとうに、よく頑張ったわね。おめでとう」
最初は心配していたお母さんエビも、大喜びしていました。
「ボク、とっても嬉しいよ」
アマエビさんは満面の笑みを浮かべます。
「アマエビくん、きみのお父さんを食べてしまって、本当にごめんなさい」
タコさんは目から涙を流しながらあやまりました。
「許してあげるよ、タコくん。きみたちが生きるためには仕方ないことだもん」
「アッ、アマエビくん。本当にいの?」
タコさんは念を押して尋ねます。
「うん。だってボクのお父さんは、きみのお腹の中で生きてるんだもん」
「タコさん、これからはわたしたちを天敵から守る側の立場になってね」
お母さんエビも、反省しているタコくんのことを許してくれました。
「こんなおいらのことを、許してくれて本当にありがとう」
タコさんは泣きながら感謝の意を示します。
こうしてアマエビさん一家とタコさんは、助け合いながら仲良く暮らして
いくことになったのでありました。
(めでたし、めでたし)
アマエビくん最後の3分間修行で敵討ち 明石竜 @Akashiryu
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