勇者の愚痴は三分続く

さくらねこ

勇者の愚痴を聞く魔王

 勇者はピンチを迎えていた。仲間はみんな倒れてしまっている。勇者の持つ剣は折れ、鎧もボロボロ、すでに体力も限界のようだった。回復薬ももう残っていない。

 勇者の前に立ちはだかる魔王は絶体絶命の勇者を見て、残酷に笑った。

「くくく、わたしを侮っているからこのような目に合うのだ。お前にはもう戦う力はない。最後に一分だけ時間をくれてやるから、自らの愚かさを悔いるがよい」

 魔王は余裕を見せて、勇者にそう告げた。さぞ勇者は悔しがっているだろうと、笑っていると、勇者は「いや、すまん。三分くれ」と平然とした様子で言ってのけた。

 魔王はあっけにとられたが、勇者の悪あがきだと思い、「よかろう」と王の椅子へ腰をかけた。

 勇者も座って地面を折れた剣で突っつきながら、深く深呼吸をすると、語り始めた。


「俺がこんな目にあっているのは、あのアホな王様のせいだ。ちょっと盗賊から村を守ったぐらいで勇者が現れたなんて、そんな簡単に見つかるわけないだろって思うわけよ。実際、それまで俺はただのモブだったし、セリフだって『村の南には罠を仕掛けてあるんだ』しかなかったわけ。偶然盗賊たちが、その罠にハマってくれたおかげで、村は助かっただけで、俺はほとんど何もしてないからね。なのに、村人Cから一気に勇者に格上げって、どれだけ人材不足なのよって話じゃない。それに盗賊と魔王さんって全然関係ないよね。魔物から姫を助けたりして、王様に気に入られるとかそういうのが普通の流れだと思うんだよね。結局、勇者って称号を手に入れただけで、報奨金も出なかったし、装備だって皮の鎧に皮の盾だよ。勇者を名乗るのが恥ずかしかったよ」―― 一分経過。


「それに仲間を集めろって言われても、俺、小さい頃からずっとボッチだったから当てもないし、金もないから雇うこともできなくて、冒険の半分ぐらいは一人で頑張ってきたんだよ。そりゃあ、そこまで頑張れば、名前も流石に売れてきて、そこに転がってる女みたいに色目を使って仲間になるやつらも現れたけど、パーティーの中で色恋沙汰とか多くて、すげえ面倒だったよね。それに、仲間になったらなったでいちいちイベント事を発生させるもんだから、ここまで来るのに思ったより時間かかったんだよ。そりゃ、レベルあげには時間が必要だし、イベントをクリアすれば珍しいお宝とかも手に入ったけど、結局一番強いアイテムは全部このラストダンジョンにあるし、強い敵もいるから一気にレベルアップして、能力値だってとっくにカンストしてるよね。魔王さんコレクションしすぎだよ」―― 二分経過。


「で、その能力をもってしても魔王さんにはボコボコにされるって、難易度高すぎるし、元々人には無理なお仕事だったんじゃないかなと今では思ってるよ。どうせなら、俺も魔王さんの下で四天王とか言われてみたいもんだね。今の四天王そんなに強くなかったし、絶対俺の方が役に立つと思うよ。そんでもって魔王軍を率いて、王都を占領したら、あのアホな王様を存分になぶってやるんだ。それから先はハーレムでも作って安らかに生きていきたい。あとの世界は魔王さんに差し上げますよ。ああ、もうすぐ俺の人生も終わりか。今から思うと村人Cも悪くなかったな。勇者にさえなってなければ、隣の家のエリーゼと今頃結婚して幸せな家庭を築いているはずだったのに、本当に残念だ」―― 三分経過


 勇者がこぼす大量の愚痴に魔王はさすがに勇者のことが哀れに思えてきた。

「よかろう。そこまで言うなら四天王にしてやってもよい」

「まじですか? ラッキー。言ってみるもんだな」

 魔王は立ち上がって、勇者を迎えるべく近づいた。

 すると、地面の魔法陣が光って、魔王は吸い込まれていく。

「貴様、何をした!」

「いや、この魔法陣書くのに三分かかるんだよね。ばれないように書くのは結構大変だったわ」

「お、おのれ……勇者がこんなに卑怯でいいのか」

 勇者は人差し指を立てて横に振った。

「違う、違う。俺は勇者なんかじゃない。ただの村人Cだ。たまたま罠をしかけるのが得意だっただけ。じゃあさいなら。アディオス!」


 こうして、世界は救われた。

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勇者の愚痴は三分続く さくらねこ @hitomebore1982

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