夏に落ちる
黄鱗きいろ
01
草いきれの中に、僕は立っていた。
剥き出しになった脛には痛いほど陽光が照りつけてくるし、左右の森からはミンミンゼミの鳴き声が降り注いでくる。
雑草が生い繁りほとんど獣道のようになったその道路の真ん中で、小学生だった僕は空を見上げていた。
「――少年」
涼やかな声。二人きりの世界にころりと言葉が転がる。
誰かが僕を呼んでいる。視線を戻すと、赤色に錆びて傾いた看板が視界に入る。白の塗装がほとんど残っていないポールに、なんとか鉄板がぶらさがっているバス停。そのすぐ隣に彼女は立っていた。
土に汚れたスニーカー、少し緩んだ靴下。そこから伸びる足はよく日に焼けており、ひだのついたスカートはぬるい風で膨らんでいる。目が痛くなるほどの白のセーラー服、二本線の入った紺の襟。
だけど、その顔だけはどうしても思い出せない。
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