終わりの刻(とき)【R40指定】

流々(るる)

最後の三分間

 終わりのときはもう目の前に迫っていた。

 宇宙最強怪獣といわれているZ-tonがこの地球に降り立ち、東京を蹂躙していく。

 化学特機隊の井田隊員が来るべきこの日のために開発したウルトラスペシウムビームは一弾しかない。

 嵐隊員が乾坤一擲の思いで放った一撃もZ-tonには効かなかった。

 絶望が人々を包みこみ、ただただ逃げ惑うばかり。


 この避難所にも大人たちだけでなく多くの子どもたちが集まっていた。

「もう、僕は疲れたよ」

 そう言うと、連れてきた犬と共に眠ってしまう男の子。

「大魔王、何とかしてよ!」

 そうお願いしていたのに、彼のくしゃみと共に肝心の大魔王は跡形もなく消えてしまった。

 もう駄目だと思ったその時!


「ジョワッ!」

 胸に流れ星のマークを付けた銀色の巨人が現れた。

 Z-tonへ勇猛果敢に立ち向かう。

 組み合って力比べの後、離れ際に袈裟懸けチョップを見舞うものの、最強怪獣は効いた様子も見せない。

「がんばれーっ!」

 子どもたちが応援する横では、もうあきらめて最後の晩餐をする者もあらわれた。

 お湯を沸かし、そこにレトルトのカレーを入れている。

「三分間、待つのだぞ」

 着流し姿の父らしき男が言う隣で、腹が減っているのにじっと我慢の子であった。


 銀色の巨人と最強怪獣の戦いも、カレーを食べ始める頃には決着がついた。

 Z-tonの放った火の玉を受け、膝から崩れ落ちてしまう巨人。

 なおも怪獣は火の玉を放ち続け、この避難所にも直撃した。

「うわぁーっ!」

「きゃーっ!」

 崩れ落ちる瓦礫の中に埋もれてしまう人たち。

 辛くも倒壊を免れた棟では、建物に火がついてしまった。

「外へ逃げろっ!」

「馬鹿野郎、外にはZ-tonが!」

 怒号が飛び交う中、一人の少女が立ち上がった。


「このままでは、みんなが危ない……」

「アリーちゃん、どこへ行くの!?」

 仲良しの美子ちゃんが止める声も聞かず、アリーちゃんは外へ飛び出した。

「マ〇リク、マハ〇タ、ヤンバラヤンヤンヤン!」

 彼女が呪文を唱えると――みるみるうちに雨雲が現れ、激しい雨が降り始めた。

 そのおかげで建物の火が消えていく。

「アリーちゃん……魔法使いだったのね」

 菫ちゃんは驚いている。

「魔法使いだとしたって、アリーちゃんは私たちの友達よ」

 美子ちゃんの言葉に涙を流しながら、二人の手を握るアリーちゃんだった。


 そして、ついにZ-tonが避難所を踏みつぶそうと脚を上げた。

「行け、ボロ!」

 今度は一人の少年が腕時計型の通信機に向かって声をあげる。

「グアッ!」

 彼の声に応えると、巨大ロボットがZ-tonの前に立ちはだかった。

 今度は最強怪獣と巨大ロボットが一進一退の攻防を繰り広げている。

 ふいにロボットが怪獣の背後に回り込んだ。

 後ろから胴に手を回し、がっちりとロックする。

「ボロ、どうしたんだ? 怪獣をやっつけろ!」

 少年の指令を聞かずに、ロボットは背中のジェットエンジンに点火した。

「ボロ! 何をするんだ!? ボロ、僕の言うことを聞くんだ!」

 しかし彼の声は届かない。

 巨大ロボットはZ-tonと共に空へ飛び立った。

「帰ってこい、ボロ! ボロの馬鹿!」

 涙を流す少年の声だけが避難所に響いていた。



 怪獣を抱えたボロが宇宙の彼方へ飛び去って行く。

 地球の危機に帰還してきた宇宙戦艦大和だいわの艦長、沖田はボロを横目に見ながら呟く。

「地球か……何もかも懐かしい」

 そしてゆっくりと目を閉じた。


 Z-tonが去った避難所では怪我人の手当てが続いていた。

 と、突然、子どもたちが大きな声をあげる。

「そう、そのまま。まっすぐ行って」

「次を左。そこで止まって」

「瓦礫が落ちてきたら、あとは大丈夫」

「3、2、1、0!」

 崩れ落ちた瓦礫の中から、一人の少年が現れた。

「ごめんよ。僕にはまだ帰れるところがあるんだ」

 少年の元へ子どもたちが駆け寄った。



         ― 完 ―

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