仮の関係

紫斬武

仮の関係

私はこの学園で地味に、目立たないように、当たり障り無い様に過ごしてきた。


周りも私の地味さに気にする事もなく、時々掃除当番代わってとか、職員室に荷物代わりに宜しくとか言われたけれど、私と同じような事を言われていた子もいたし、毎日じゃなく半年に一回あるかないかだから気にならない。


地味をモットーに、ひっそりとこっそりとクラスに溶け込み、卒業すると思っていた。


彼に会う前は。


彼は学園一の人気者、学園の王子様って言われている花園渚はなぞのなぎさ、微笑みも仕草も人当たりも皆に平等、優しくスマート、次期生徒会長候補筆頭。勉強も出来てスポーツ万能、家も金持ちとハイスペック男子だ。


そんな男子と知り合うとか、話すとかそもそも地味な私には烏滸がましい行為になるのだが、何がどうなってそうなったのか、私も言いづらいのだが……。


「…今、聞いた事を話したらブチ犯すぞ、てェ…解ってるか?ぁあ?」


あの、学園一の人気者で学園の王子様って言われている花園渚様が、微笑みも仕草も人当たりも皆に平等、優しくスマート、次期生徒会長候補筆頭の花園渚様が、勉強も出来てスポーツ万能、家も金持ちとハイスペック男子の花園渚様が…、


私を壁ドンし、凄みある表情に、唇から盛れたとんでもない言葉を浴びせている。


「テメェ、シカトしてんじゃねーぞ!」


「ひっ、し、してません、してません!あ、余りの事に、お、驚い、て」


優しい王子様の愛称がある花園渚様が、学園にいる不良達を足蹴りし、罵倒を浴びせ服従させている姿を、偶々通り掛かった裏校舎の近道で見てしまったのだった。


近道、短縮3分!とウキウキした、地味な私を叱咤したい。


壁ドンなんて無縁だと思っていた私に降り掛かった王子様な壁ドン。想像とはかなりかけ離れてはいるが、壁ドンではある。


現実逃避に考えていると、片手壁ドンだったのが、もう片方も壁ドンし両壁ドンになる、に、逃げられない。


「見た事、聞いた事を他人に話すんじゃねーぞ?」


「い、言いません!誰にも何も言いません!」


「…信じられねェな、本当に言わねェのか」


「ほ、本当に本当に言いません!誓います!」


昼休みが始まるまで、後3分。これを過ぎればワラワラと人が集まってくる筈。え?授業はどうしてたって?地味な私でもサボりたくなる時はあるのよ、それがかなり裏目に出た訳だけれど。


「テメェ、人の話しを聞いてんのか!?」


「ひぃっ!聞いてます、聞いてました!真面目に聞いてました!」


全く聞いていなかったが、この場を早く立ち去りたかった私は、首の骨を痛めるくらい高速で上下に振り頷いた。


「はっ、なら良い。今日から卒業までテメェは俺の彼女、監視してるからな」


「は、はい!彼女、………か、か、か、彼女!?」


「あぁ?」


「はい!彼女でした!間違いありません!」


何がどうなったのか、チャイムがなると共に、私は花園渚様と彼女彼氏な関係になった。


一体、な、にが。


地味な日々を過ごしていた私に降り掛かった災難に途方がくれた。あの3分を恨みたい。

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仮の関係 紫斬武 @kanazashi

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