最後の時間にできること

夏木

残り三分です


「あと三分だ。最後までしっかりやれよ」


 中学校生活最後となる三年の学年末テスト。

 既に高校入試も終えているため、進路に影響することはない。だからふざけて受けても問題ないのだ。受験勉強を終えた同級生たちは、今回の学年末テストには力を入れていないやつらがほとんどだ。皆受験勉強で疲れているから、今回のテストに向けては勉強しないだろう。

 しかし、俺は手を抜かない。

 中学校入学してからずっと、学年一位の座を守ってきた。サッカー部にも所属し、大会にも出場、好成績を残している。さらに、生徒会長をやっていた。そう、俺は文武両道の優等生で過ごしてきたのだ。

 ここまで来て最後に手を抜くことはしたくなかった。子供みたいな考えで今回のテストを受けている。


 今日はテスト最終日。

 この学校でテストを受けるのも本当に最後だ。

 科目は数学。

 最初は簡単な計算から始まり、最後の方は難しい問題になる。

 手を抜かない俺だ。わからない問題はなかった。

 一つのテスト時間は五十分。手を止めることなく問題を解いて時計を確認する。するとまだ二十分も経っていなかった、

 人は同じ事を繰り返していると、ミスをしやすくなる。何度も見直しをすることも可能だが、ミスを見つけることは難しいだろう。一度落ち着いてから見直しをしようと考えた。


 落ち着くために何するか。

 それは仮眠だ。静かな時間、そして春を感じさせる空気。睡眠はいつもしっかりとっているのだが、気分転換のために机に伏せて仮眠をとる。睡魔はすぐにやってきた。



「はーい、あと三分。あと三分だ。最後しっかりやれよ」


 テスト監督の担任教師が声をだす。そして寝ている者を起こしていった。

 俺も起こされた者の一人だ。肩を叩かれて起こされた。

 眠い目をこすりながら時計を見れば、残り三分しかない。

 今まで完璧な成績を修めてきた。毎回テストは見直しをしてきたからこその結果だ。

 今のテストではまだ見直しを一度もしていない。頭がハッキリと覚醒するまで一分はかかっている。残り二分ぐらいしかない。慌てて見直しを始める。

 たった二分で見直しが終わるわけがない。

 半分も見直しを終えることができずに、テスト終了を告げるチャイムが鳴り響いた。



「手をとめろー。もう何も書くなよ。書いたらカンニングだからな。じゃあ、後ろの人がテスト回収してこい」


 最古まで見直しが出来なくて不安しかなかった。ペンや消しゴムを机に置いて、目だけで確認をする。幸運にも席の後ろの人はなかなか回収しようとしないため、全ての問題を見直しすることができた。

 計算ミスはしていない。答えはあっているはずだ。ホッと一安心したとき、ちょうど回収しにやってきた。

 手渡ししようとしたとき、重大なミスに気づいた。




 名前を書いていない!



 いくら問題を解けていようが名前がなければ零点だ。最後のテストだからと気合いを入れた結果、初歩の初歩でミスしてしまった。


 テストはそのまま回収されていく。

 やってしまった、そう後悔するしかなかった。


 全ての答案用紙を受けとった教師は枚数を確認していく。

 パラパラとめくる音が更に嫌な思いにする。

 教師が途中で手を止めた。そして数枚前に戻る。


「出席番号28。ペン持って前にこい」


 俺の番号だ。言われたとおりにペンを持って行く。


「名前、書いて。受験だったら落ちてるぞ。気をつけろよ」


 いつも口の悪い教師だが、今回は感謝した。

 軽く謝って、書き忘れた名前を書く。そして席に戻った。



 残り三分。

 その時間で全部を見直しするなんて無理だ。

 今度からはまず、名前をちゃんと書いたのかをその三分で確認しようと決めた。

 三分で絶対できるのはそのレベルだろう。

 二度も同じは失敗しない。

 三分、たった三分でもできることはあるのだから。




 ちなみに後日、成績が発表された。

 俺は見事学年一位を死守した。

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