神様がくれたのは三分でした
足袋旅
復活チャンス
ウインタースポーツを楽しむ会。
それが僕が所属したサークルの名前だった。
北国出身ということで、幼少のころから家族で冬にスキーを楽しんだ経験があって入会することにした。
冬以外はただの飲み会サークルで、それに参加したのは二回だけ。
毎月二、三回は飲み会を開いているようで、僕の参加数は少ない部類だ。
けれど待ちに待った冬季が訪れると、雪山に滑りに行くと連絡があり、すぐに参加を表明した。
スキー板は嵩張るし、買うと高いという理由でレンタルすることにし、ウェアや帽子、ゴーグル、手袋なんかは用意した。
当日、車を持っている人に乗せてもらう形で、十五人くらいのメンバーが分乗して出発した。
車内では飲み会にもよく参加するメンバーが仲良さそうに会話し、偶に僕にも話を振ってくれて、それなりに楽しい時間を過ごした。
山に到着すると、早速ロッジでレンタルする道具の品定めを始める。
そこで気になったのがスノーボードだった。
スキーよりも格好いいイメージがあるし、一緒に来たメンバーの多くもボード派だった。
物は試しと僕もボードを選ぶ。
実は雪山に遊びに来るのは中学生以来で、しかも初めてのスノーボードとあって少し緊張している。
上手く滑れるだろうか。
リフトにはもたつかずに乗れるだろうか。
そんな心配をしていた。
なのでサークル仲間に、「少し練習してきます」と告げて一人でコースに向かった。
中級者コースに向かうリフトを待つ列に並び、いざ自分の番がくると問題なく乗れた。
しっかりと嵌めたとは思うが、ボードが外れて下に落ちませんようにと考えながら乗ること暫し。
無事に到着した。
滑りだすと、初めはやはり覚束ない動きになってしまったが、スキーの経験もあってか難なく下まで滑り終えることができた。
「皆塚くん、結構滑れるんだね」
ゴーグルを外し、一息吐いていると話しかけられた。
誰だろうかと顔を見るも、相手はゴーグルをしていて判別できない。
困っていると自分で気付いてくれたようだ。
「そっか、これじゃ分からないか。原田だよ。
ゴーグルを外し名乗ってくれたのは、行きの車中で話題を振って盛り上げ役を買って出ていた同学年の人だった。
「ああ、原田くん。うん、ボードは初めてだったけどスキーの経験があったおかげで案外滑れたよ」
「やっぱり経験者だったか。一人で練習するっていうから、皆で初心者だから恥ずかしいのか、経験者だから一人で問題ないのかって賭けをしてたんだけど、俺は勝ち組だね」
知らないところで賭けの対象にされていたことに、思わず苦笑が浮かぶ。
「じゃあ原田くんは、僕がどちらなのか確かめるためにここで待ってたってこと?」
「まあそれもあるし、もし初心者なら流石に心配だから教えてあげようか思ってね」
面倒見がいい性格のようだ。まあそれは車中から分かっていたことだけど。
「ありがとう。ご覧の通り、大丈夫だから原田くんも好きに滑ってきていいよ」
「いやいやいや、連れないこと言うなって。折角サークル仲間で遊びに来たんだから、少しは一緒に滑ろうぜ」
それもそうだと了承し、一緒に滑ることになった。
リフトでは学校の話や、近所にある美味しい定食屋の話題なんかで盛り上がる。
二度ほど中級者コースを滑った後、原田の提案で上級者コースに向かうことになった。
結構な高さまで行くせいか、リフトにも雪風よけのカバーがされていた。
途中、風が強くなり吹雪いてきた。
「山の天気は変わりやすいって言うけど、正にだな」
僕は吹雪に不安を感じていたけれど、原田は逆に楽しそうにしていた。
リフトは無事に上まで僕らを運び、戻って行く。
最悪なことに、吹雪はより強くなっていた。
視界の悪い中、滑り出しの地点まで進む。
思った以上に傾斜があった。
これまで上級者コースに来たことがなかったので知らなかった。
これを吹雪の中、下りていくのはかなりの勇気が必要だ。
怯える僕に原田が「大丈夫。最悪ボードじゃなくてケツで滑って下りれば下までは着くんだから」と励ましてくれた。
「じゃあ下でまた会おう」
と原田は先に行った。
原田の励ましとこれ以上の吹雪になられても困るということで、覚悟を決めて滑り始めた。
案外傾斜があっても下りられるなと序盤は快調だった。
けれど上級者コースを侮り過ぎたらしい。
突然目の前の雪上にコブのような出っ張りがあり、バランスを崩した。
しかもまだ慣れたとは言い難いスノーボード。
バランスを保とうと奮闘するうち、横へと進み過ぎたらしい。
目の前に蛍光色のネットが見える。
その先はコース外で、先が見えないことから傾斜があるようだ。
ネットで止まるか、と思った僕の心境をよそに、高さがないネットは傾いでいたのか僕を受け止めることなく通過させる。
急な傾斜で、僕は転倒した。
コースの外には疎らに木が生えており、何度も体をぶつける。
幾度か痛みを感じたが、途中で意識を失った。
気づくと真っ白な空間にいた。
寒くはないし、白いのも雪ではない。
そんな場所に、僕以外にも人がいた。
僕と同い年ぐらいの異様に綺麗な女性。
胸元まであるストレートの艶がある黒髪を揺らし、笑顔を浮かべて近づいてくる。
服装は、薄っすらとストライブが入ったパンツスーツ姿。
倒れている僕の前まで来ると、屈んで「やあ」と挨拶された。
「どうも」
と訳が分からないながらも返事を返した。
「
突然の言葉に驚くも、この真っ白な世界。
まさかという考えが浮かぶ。
「もしかして異世界転生ですか」
「えっ、何言ってんの。違うよ」
このシチュエーションは間違いないと思ったのに。
体を起こしながら、もう一度確認を取るために予想を口にする。
「ここは死後の世界みたいな…」
「うん、そうだね」
「あなたは神様みたいな…」
「はい、正解」
「異世界転生…」
「ないないない」
片手を振って、真面目な顔で否定された。
「じゃあなんなんですか」
「ダララララララララララララララッ」
不意に始まる美女の口で奏でるドラムロール。
「ダダン。復活チャーーーーーーーーーーーーンスッ」
急なハイテンションに呆然となる。
「そこで登場するコレ。ルーレットダーツ!これから君にはこの矢を投げてもらいます。当たれば君なら一、三、五分いずれかの復活チャンスが与えられます。当然外れたら無し。そのまま輪廻転生の輪に帰って頂きます。では早速始めよう。ルーレットスターーーット!」
突然足元から出てきたルーレットにも、訳の分からない解説にも理解が追いつかない。
「早く投げないと、チャンス無くなるよー」
との言葉に、とりあえずダーツの矢を投げる。
それは適当に投げはしたものの、的に当たった。
美女がルーレットの回転を手で止め確認する。
矢は三と大きく書かれた場所にあった。
「はい。おめでどうございます。三分が皆塚亮に与えられます。はい拍手ー」
パチパチパチと自分と美女の手を叩く音が響く。
「じゃあ行ってみようか」
との言葉に、僕は慌てて待ったをかけた。
「待ってください。説明を、説明をお願いします」
「えっ、いるの?」
「いりますよ。当たり前じゃないですか」
「はいはい。めんどいけど仕方ない。じゃあ良く聞いて。不運な事故死者には復活チャンスを与えます。その人の生における功罪を基に時間を決定。悪いことばかりしてたら数秒前とかでもう一度痛い目に遭います。良い事してれば事故を防げるかもしれません。もし防げたらここでの記憶はなくなります。以上。OK?」
混乱しながらも、言われたことを整理する。
「つまり僕は、死ぬ三分前に戻されるってことですか」
「ザッツライト。君が死を迎えるまでの最後の三分間をもう一度やり直せます。理解できたら早速行こう。レッツゴー」
美女が指を弾く音。
途端に場面は、僕がボードに乗ってフェンスを視界に収めた瞬間へと戻された。
このままいけば死んでしまう。
それを分かっている僕は、バランスを取るのを止めて雪上へと体を倒す。
いくらか滑りはしたものの、無事に止まることができた。
危機一髪であったことに胸を撫で下ろし、しばらくその場で佇んだ。
吹雪が少し弱まったのを機に、ゆっくりと下へと滑り始める。
下では原田が心配そうに待っていた。
「遅いから心配したぞ」
「ごめん。途中でバランス崩しちゃって。僕には中級者コースが合ってるみたい」
「そっか。じゃあ俺もそっちで遊ぶかな。その前にやっぱり女子とも遊びたいし、一回ロッジに戻らないか」
「いいね。そうしようか」
その後もスノーボードを時間いっぱい楽しんで過ごした。
合間にあった神様とのことなど、既に記憶から消えていた。
皆塚がその後寿命を迎えて死に、神様に出会うまでは。
神様がくれたのは三分でした 足袋旅 @nisannko
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