黄泉の案内人

ケンジロウ3代目

短編小説 黄泉の案内人


『3分後にあなたは死ぬ』



そう言われたら、あなたはどうしますか?


これは、そんな人の物語です







今日も黄泉の案内所に、たくさんの人達がやってきます

案内人はその人達を今日もあの世へ送り出していく

大勢の人達は一列に並び、順番待ちで行います


「次の人どうぞ。」


前の人の案内を終え、案内人は後ろの人へ呼びました

しかしその人、見た目は他と同じなのに

何か雰囲気が違う、そんな気がしました



「何でここにいるか、教えて頂けませんか?」



案内人はここに来た理由を聞く必要があります

何か矛盾している気もしますが、ここは置いときましょう

するとその人はいいました


「3分後に死ぬといわれた」、と



しかしその人は、その言葉に恐怖することもなく

しかし逆にもう諦めて死のうと考えているようでもなく


ただ淡々に、黄泉の案内人にそう告げたのです



これははっきり言って特殊です

今までここを訪れた人は・・・というか連れてこられたというべきでしょうか?

とにかくそんな人達からは、先程の二つのどれかの感情が見えるものです

死にたくない、またはもういっそ死んで違う世界へ・・・なんて

まぁこんな感じでしょうかね

しかし目の前のこの人からは




どちらの感情も感じられない ―――





「え、えーと・・・何か思い当たる節はありますか?」


「いいえ。」


「・・・で、では何か今痛みやその他などは?」


「いいえ、まったく。」




このように答え方も淡々としているものですから、これは案内人の方も困り始めるわけで

まぁその案内人って、私ですけど


私は傍の棚からガイドブックを取り出し

『ここにくる人の特徴について』というページを開いて確認します

この人は、どのような境遇にあっているのかを



しかし出てきませんでした




私の仕事は、ここに来た人達をあの世へ送り出すこと

しかしここへ来た理由がわからなければ、送り出すことが出来ません

え、「理由は?」だって?

あ、それは規定によりお答えできません



「あー・・・」


私もとうとう分からなくなってきまして

匙を投げようとしました

私はここの新人ですから、あとは先輩たちに任せようと

するとその人はふと


自分のことを、はなし始めました ―――





「僕の世界は、今も灰色のままです。現実世界は全く面白くないしもう興味もわかない。」


「だから僕は、違う世界に行きたいと思っていました。」


その人は、段々話していくうちに

淡々としたあの表情が、崩れていくのです


「しかしちっぽけな僕がそう思ったって変わらない。変わるわけがない。」


「自分の思いが少しでも反映される世界に、少しでも楽しい世界に行きたくてッ ―――





だからここに来た ―――







僕は信じられませんでした


だってここは黄泉の世界

死に行く人を送り出す、それだけの空間なのに

僕の頭は、そんな疑問でいっぱいです


「なんで・・・この世界なのですか?」


僕はそう聞きました

だって本当に分からなかったから

ここは決して好き好んでくるような場所ではない

目の前のその人よりも、そのことを僕は知っているつもりです



するとその人は、口を震えさせ、下唇を噛み

さっきまで乾いているように見えたその眼から、ついに涙を流したのです



僕は黄泉の案内人

案内する人のことを知る必要があります

ですので、そんな僕はこんな能力を持っています

それは・・・


――― 涙から、その人の境遇を知る能力 ―――




僕はその能力を、発動させました





♢ ♢ ♢ ♢ ♢


その人、名を須田幹也さん

どこにでもいる、ごく普通の高校生でした

しかしそんな須田さんには、好きな人がいた

それは


彼の幼馴染、加藤沙理さんでした


しかし加藤さんは生まれつき身体が弱く

高校に入ってからは入院が結構であると言います

須田さんは毎日お見舞いにくるようになり

加藤さんを元気づけたり、時には話をして笑わせたりなど

色々なことを、加藤さんにしてきました

早く良くなることを願って 



しかし願いは届かず

加藤さんは、この世を去りました



それから須田さんの眼には、色が映らなくなりました




♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「もしかしてここに来たのは、その幼馴染さんに会うため・・・ですか・・・!?」


須田さんは、小さく首を縦に振りました



信じられません

想い人を、例え亡くなっても追いかける姿があるなんて

僕は想いの強さを、いい意味でも悪い意味でも


こんな形で知りました



僕はそんな須田さんを見て

そんな強い想いにも関わらず

なぜ今まで淡々としていたのかが気になりました


そしてその答えは、すぐに出ました

そう



誰も信じてくれなかったのです ―――




亡くなった人の元へどうやって行くのか

願ったら行ける 行きたいと思ったら行ける

その考えは、誰からも認められなかったのです




「・・・分かりました。ではあなたをあの世へとお送りしましょう。」



僕はそう言って、あの世への門を開きました

須田さんはいつの間にか淡々した表情に戻り、静かに門へと歩いていきます

そんな彼に、僕は冥福を祈るのです



どうかあちらでは会えますように







このように、僕たち黄泉の案内人は色々な人を送り出します

結構大変ですが、少しでも死に行く人が報われることを祈って今日も 

僕は案内を、続けていくのです



「次の人どうぞ。」




そうして僕の前に来た人は

先程の彼とどこか似た雰囲気を放つ


とある一人の少女でした


僕はいつものようにこう聞きました



「何でここにいるか、教えて頂けませんか?」








「さっきの男の子に、会うために来ました。」









おわり







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黄泉の案内人 ケンジロウ3代目 @kenjirou3

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