千年支社

エリー.ファー

千年支社

 間もなく、この支社は閉めることとなる。

 別に、閉店であるとかこれでこの支社は終わりという事ではない。

 単純に。

 会社を閉めるまであと、三分間。

 最後の三分間。

 ちょっと遊ぶ。

 私はこの支社の部長をしている。

 上には支社長しかいないが、基本的に支社長は何もしない人なので、私が動いて支社の状況を観察し、回している。実際、この支社に回されてきた時は余りいい気分はしなかった。本社勤務だったにもかかわらず、ここに飛ばされてきたわけだし。

 というか。

 千年支社というのも中々なのだ。

 ここから時限移送空間への矛盾した抵触を避けるためには、確かにタイムパトロールとの癒着は必要になる。そのために便宜上作られた支社とは言え、随分と豪華絢爛である。中には銅像やら、高そうな花瓶やら書道やら絵画やらが所せましと並び、すべてを売り払ったら、この支社が毎年出している赤字の補填に使えそうなものである。

 ただ。

 それは私が考えることではない。

 責任を取らされるだろうが、正直、出世は諦めているし、もうどうでもいい。

 妻とは最近話していないし、娘は割となついてくれているが大学に行くというところで、一人暮らしを始めたもう会うことは難しい。飼っていた犬とテポチオデアオドンが唯一の家族と呼べる相手だったが、体調がおもわしくないようで病院にいっている。

 控えめに言って。

 夜も眠れない。

 だから、私は誰もいないこの支社の中を。

 電気を消し。

 カーテンを閉め。

 鍵をかけて。

 全裸で走り回る。

 理由とかは。

 ない。

 本当に。

 ない。

 なんというか、すかっとするからくらいしかない。

 薄くなった頭の髪の毛を風邪で揺らしながら、きていたスーツを脱ぎ、全裸で走り回るとこれは不思議なもので多幸感に溢れてくる。

 なんというか。

 これは認知症や、ストレスの解消、果ては老人老婆のリハビリにまで応用可能なのではないか、と思えてくる。

 支社長の机を飛び越えようと、助走を付けて飛び上がる。

 なんと、飛び越えられた。

 と思った瞬間、尻で、机の角を強打。

 そのまま机がひっくり返り、資料と電話が宙を舞う。

 私はそれをスパイのように避けて、軽く集めると、後で直すために壁のところに置いておくことにする。

 出入り口近くにあるロッカーのあたりを、ステップを踏みながら練り歩き。

 カーテンを体に巻き付けてそれをセクシーに取りながら、それを携帯電話で自撮りする。

 娘が教えてくれたことだ。

 この自撮りテクは。

 ごめんな。

 お父さん。

 こういうことに使ってるよ。

 お前の自撮りテク。

 私はそうしてスーツを着て後にする。

 これが支社の鍵を閉めて帰るまでの最後の三分間。



 あたしは見ていた。

 ロッカーから見ていた。

 いつも思っていたのだ。

 終業時刻が近づくと何か部長がそわそわしていると、何かお股の間に何か挟んだような動きを座ったままするようになるのだ。

 みんなは言う。

「直ぐに帰らせてくれてありがたいよなぁ。」

「あの部長のおかげで、サービス残業なくなったしね。」

「終業時刻が近づくと、みんなの仕事内容確認して、回ってくれるし。しかも手伝ってくれるんだよ。すごいよねぇ。」

 あたしはずっと思っていた。

 絶対、なんかあると思ってた。

 そしたら、あった。

 凄いのあった。

 最後の三分間で全裸で走り回り、踊って、自撮り。

 なんだそれ。

 あたしも混ぜてほしい。

 いいなぁ。

 いいなぁ。

 楽しそうだなぁ。

 だから。

 明日からずっとここで見てよ。

 会社を閉める。

 最後の三分間。

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