凍て林檎

エリー.ファー

凍て林檎

 最後の三分間何があったのかは誰も知らない。

 皆、ただそこに凍てついた林檎が一つだけしか確認できなかったのである。

 時間にしてたった三分間。

 元々、その三分前。

 その部屋は密室だったのだ。

 爆弾処理班の班長。

 爆弾魔。

 少女。

 警察官。

 そして。

 探偵。

 それしかそこにはいなかった。

 監視カメラもなく、ただ時間だけが無情に過ぎていき、気が付けば三分が過ぎていた。

 外で待っていた何人かの隊員たちは仲から何の音も聞こえてこないことを不審に思ったそうだ。それもそのはず、その中では、その三分後に爆弾が爆発する予定だったからである。

 つまり。

 三分経って無言であれば、その中で爆弾の解除は行われたという事になる。

 けれど。

 誰も出てこなかったのである。

 静かなままだったのだ。

 これが、全てである。

 この凍て林檎事件は、こうして幕を閉じた。

 そもそも、この部屋に一緒にいた爆弾魔も、それこそ他の人員も、本当の犯人からの指示のもと中に閉じこもるしかなかったのだ。情報を外に流さないように配慮しろ、との命令も犯人から来たものである。

 私は外で待っていたうちの一人だった。

 同僚と共に、お茶を飲み少しばかり考えてしまう。

「あの、凍てついた林檎は何だったんだろうな。」

「それもそうだけれど、そもそもこの事件自体、よく分からない。中に入れて爆弾を解除させて、気が付けば全員そこからいなくなった。最初の話だったら。」

「分かっている。凍てついた葡萄になってしまう。という話だった。」

「あぁ、中にいる人間が凍てついた葡萄に変わる。いや、実際にそのようなテロがヨーロッパで行われて、何人も消えたとニュースがあった。」

「あぁ、つまり、罠だったんだろう。」

「葡萄と見せかけて、林檎か。」

「葡萄だったら、確かにどうにかできたかもしれないが、林檎はまた新しいテロの可能性があるし、前例がない。」

「檸檬や梨もあったが、あれはかなり前のことだ。」

 その瞬間だった。

 目の前に何かが滑ってきた。

 滑ってきた方向に目を向ける。

 誰もいない。誰一人として、そこにはいないのである。

 そして、明らかに目の前にあるのは爆弾だった。

 表面は段ボールによっておおわれており、タイムリミットを告げるアナログ時計の数字はもちろん。

 三分。

 私は唾を飲み込んだ。

 持って、移動するか。

 いや。

 時間が足らない。

 それならここでどうにかしなければならない。

 ここにこの爆弾を解体するための器具はない。もちろん、凍てついた葡萄にならないようにするための予防接種なども不可能だ。

 これでは、とてもではないが、失敗してしまう。

 無理がある。

 殺される。

 殺されてしまう。

 果物にされる。

「どうする。」

「どうしようもない。」

「だが、この形状なら、おそらくその被害を受けるのは俺たちだけで済む。」

 それはやはり爆弾処理班として活躍してきた、そして命を燃やしてきたことによる、最後の正義だった。

 私はおもむろに爆弾をひっくり返して見せる。

 裏に何か書かれている。


 今回は、無花果です。


「無花果ってなんだっけ。」

「あ、そう言われるとあれだわぁ、出てこない。うん。」

「あの、ぐじゅぐじゅしたやつじゃないかなぁ。」

「あぁ、あれかぁ、あれは結構おいしいよね。」

「あ、そう。」

「結構好きだよ。」

「あ、そうなんだぁ、美味しい果物なんだぁ。」

 じゃあ、いいや。もう。

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