私たちの出会う時、無言だね

永人れいこ

第1話

 公園で初めて見た。

 彼は公園のベンチにサンドイッチを食べていた。イヤホンが耳につけて何かを聞いているかでしょうか。

 綺麗だ。その瞬間、彼は綺麗だ、と思った。イケメンということじゃなく、他の女性は彼を見ると微妙だと思えるかも知らない。けれど、あの時、あのベンチに座っている彼を眺めている私が綺麗だとしか思いつかなかった。

 制服を見ると私と同じ学校だと気づいてお腹の奥から変な緊張感があげた。

 私は先月ここに引っ越したばかりなので、自分の組にいる学生たちの名前でもまだ全部覚えていない。もちろん、他の組の学生の名前どころか顔も覚えらるわけがない。けれど、どうして彼の顔が今まで見ていない。そんなに綺麗ならきっと廊下でチラッとでも見たら覚える、思う。

 彼の名前がどうしても知りたかった。急に彼の前に行って名前を聞いたら、引くでしょうか。

「やっほぉ、チズちゃん」

 後ろに振り返った。見覚えのクラスメートは学校に行くように歩きながら私に手を振った。

「サトミちゃん、おはよう。君もこの辺に住むの」

「そうだよ。すぐそこよ」

 彼女は頭を後ろへ振った。

「へー、近いよね」

「え?チズちゃんはどこ?」

「すぐ隣だ」

 私は隣のアパートに指差した。

「近いよね。じゃ、今日一緒に帰ろうかぁ」

「いいよ」

 はじめて他の人と一緒に帰るかと誘ったからちょっとびっくりした。

 前に住んでいた町は小さくて一番近い学校は電車で1時間近く経った。言わなくても察せるかもしらないけど、自分の町から来る他の学生たちはいない。その時間で宿題を全部やってしまう。学校から帰るまでにやることはもうないから、お母さんとお掃除とか料理とか手伝ってあげた。

 お母さんはいつも「チズは真面目な子だね」と言う。けれど、それは違う、と思う。正直言うと友達と会えば電車で片道は1時間以上だからあまり出かけたくないしパソコンとかテレビも持っていないから退屈すぎて、お母さんを手伝うことしか残っていなかった。

 サトミちゃんと私は無事で学校にたどり着いた。

 引っ越してから迷ってしまった時はほどほどあった。まだ道の中に不良の人と出くわしたことがないけど、引っ越す前にお祖母さんは私に注意した。東京には悪い人がいっぱいいるから、できるだけ一人で出かけないし夜来る前に帰らないといけないしだと言われた。

 お祖母さんは子供の頃東京に住んでいたから、彼女に言われたもの全部信じてできればできるだけ守るようにする。

 


 あの朝の授業はあっという間に過ごしていつの間にかもう昼休憩になった。

「ねぇねぇ、チズちゃん、一緒に食べよぉ?」

「あ、う...うん。食べよう」

 今朝に出会ったサトミちゃんともう一人の女の子が弁当を持ち、私の机に追いかけた。私は賛同を聞く前にもう私の近くの机がくっつけて座った。

「チズちゃん、彼氏いる?」

 突然の質問に私がちょうど飲んでいるジュースで詰まられた。

「い...いないよ」

「え?もったいない。誰かに興味あんの?」

 今度聞くのは他の一人の女の子、――ミサちゃんだった。

 今朝に見た男性を思い出した。彼は私と同じ一年生か、とふと思った。

「いないよ」

 嘘じゃない。今にも彼が頭から離せないけど、今日初めて会った、じゃなく、初めて見た人に興味あるわけがない。興味というより好奇心だと言えばいい、と思った。

「ダイキくんが彼女に興味あるけどさ」

 サトミちゃんはミサちゃんに報告した。これは私にも初耳だ。

「ダイキくんって...?」

「ほら、彼だよ」

 私はサトミちゃんの目を追って教室の奥に5~6人の男性のグループの真ん中に1人の男が座っていた。

「モテそう」

 私は呟いた。

「ねぇ、放課後予定ある?」

 サトミちゃんの目には何かキラキラする気がした。

「一緒に帰るよね。それ以外何も」

「今日はバスケット部は練習の試合ある。見に行こう?」

 断る理由は考えられないからただ賛成の頷きを返した。



「あ~、疲れた」

 授業が終わって今昼休憩と同じ連中と一緒にジムに向かっていた。前の学校でも部活あった。何回もいろいろな部に入ろうとしたが、人数少ないために楽しいとか全く思わなくてすぐやめた。

「パスパス」

 ジムのドアについたところで中から男性の声が聞こえた。もう始まったみたいだ。サトミちゃんとミサちゃんがお互いにドアを開けて私を中に誘った。

 入るとコートに走り回る10人の男性がすぐ見えた。真ん中に上手くボールを扱っているダイキくんがこちらにチラッと見た。

「みたみた?彼がチズちゃんに興味あるよね」

 コート際に設定されたベンチに他の観客さんと一緒に座り込みながらそう私の耳にささやいた。彼女の言うことを無視することにした。私たちのほうへ見るだけで私に興味あるの証拠じゃない。

「ねぇ、チズちゃん、かっこよくない?」

 今度はミサちゃんが私の肩を激しく叩いて隣の席に座っている人にぶつけてしまった。

「ち、ちょっと!」

 私はミサちゃんに注意してぶつけてしまった相手に振り返った。

「ごめん―――」

 私は謝る途中で気づいた。ぶつけた相手は今朝、ベンチに食べる男の子だった。彼にそんなに近くなって口からもう何も出られない状態になった。

 彼はイヤホンを耳から外して私に見つめた。怒っていないみたいだけど、何も言えずこちらから言うことを待つしかない。

「ご...ごめんなさい」

 ようやく言葉が口から出た。彼はスマホをポケットから取って素早く何か記入して私に画面を見せた。

『いいよ、別に気にするな』

 ――えっと、ちょっと待って。私はせっかく自分の口から素直に謝ったけど、彼の返事はスマホにどうでもいいように書いたメモだけだ。失礼じゃないか。一体何様だと思うでしょうか。

 怒ってしょうがないで試合に振り向いた。この人もう二度と話さないよ、と決めた。

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