花園の終わり 一


 その後、駆けつけた消防隊によって火は消され、パトリックに抱きかかえられて救出された雪葉は救急車によって運ばれた。だが、その後さらに警察が駆けつけてきて、たんなる火事では事はすまなくなった。

 火事が鎮火されて一時間後、学院長室にいた美波は学院長との問答のはてに警察官によって部屋を開けてもらい、出ることができた。

 出てきた美波のその手には警察へ通報したスマートフォンが握られていた。夕子のものである。


 火事の原因は二階の空き部屋で煙草を吸っていた生徒――その後の取り調べで貝塚寧々だとわかる――の不始末であった。

 貝塚寧々はその煙草を、時折職員室のシスターたちの机からこっそり盗んでいたらしい。

「シスターでも煙草吸っていたのね」

 あれから一月が過ぎ、終わろうとしている夏の空を背に美波は憮然と呟いた。側には司城がいる。

 あの後、学院の問題がいろいろ判明していき、学院長はじめシスターたちは現在も警察の事情徴収を受けている。過去の罪が暴かれれば実刑もありえるだろうが、学園の後援者である財団はいっさい関知しないという。

「自分たちは関係ないっていうのね」

 学院と関係のある「聖ホワイト・ローズ」病院も事件発覚後、もぬけの殻となり、わずかにいたという医者も看護師も忽然と消えたという。

「信じられない。そんな事ってあるの?」

 新聞では当初学院の火事が報道され、その後学院の厳しい管理教育や体罰に批判がいったが、そこでぷつりと立ち消えの状態だ。幸い死者も出なかったことから、地方の私立校での火事騒ぎだけで終わってしまった。財団が裏で手をまわしたのかもしれない。

「妹さんのこと、解明されるといいね」

 終わろうとする夏の最後のあがきのように降ってくる強い真昼の日差しが、美波の頬を焼く。二人はならんで火事あとの別館を見ていた。

「無理だろうな。もみ消されるさ。……それでも、学院長がつかまったし、シスターたちも事情を聞かれているし……とにかくこの学院が閉鎖されただけでも良かったと思っているんだ。亡くなった彩花の魂も少しは安らぐだろう」

 美波も警察に事情を訊かれ、知っていることをすべて打ち明けたが、雪葉の食事に毒が入れられていたという美波の訴えは、警察に取り上げられるまでには至らなかった。

 たしかに料理には早産や切迫流産を引き起こす可能性のあるシナモンやターメリック(ウコン)などが入っていたが、いずれも微量で事件性はないと判断されたのだ。

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