「そういうの? あれ、ほら、コーヒーにも誰かが入れていた」

「あ、もしかしてシナモン?」

 美波も入れたことがある。今日のコーヒーには入れなかったが。

 迂闊うかつだった。食べものや飲みものそのものではなく、スパイスだったのかもしれない。

「シナモンて、妊娠中に良くないもんかな?」

 夕子が訝しむような顔になるが、美波は即答できず必死に記憶をさぐってみた。

「以前、聞いたことあるけれど、ある種のスパイスは良くないって……。でも、あんなちょっとじゃ……」

「もしかしたら、他の料理のなかにも含まれていたのかも」

 夕子の言い分に美波は首を振ることはできなかった。あり得ないわけでもない。

「食べたら判るとは思うけれど……でも」

「ああ、やっぱり、学院長は魔女だったんだ。ていうか、ここの連中って皆魔女だ」

 その言葉に美波はふかく頷いていた。

「ハーブ、薬草なんて、いかにも魔女の道具みたいじゃん。薬だって使い方ひとつで毒になるっていうし。昔から修道院てそういう薬草も、勿論薬として使うためにだけれど栽培していたってなんかで読んだことある」

 夕子は喘いでいるベッドの雪葉を見下ろし、つづけて言った。

「雪葉もその薬草の毒気に当たったんだ」

「……雪葉、大丈夫?」

 美波の言葉に、雪葉は辛そうに首を振る。

「ねぇ……、夕子、最悪の場合、あの司城さんから、警察へ電話した方がいいって言われたの。もう今はするしかないかな?」

「警察よりも救急車呼んだ方がいいかも」

 とはいうものの、そこは二人ともまだ高校生であり、警察にしろ救急車にしろ呼ぶのは勇気がいる。

「どうしよう?」

 ここは正念場かもしれない。

(手遅れになったら大変だわ)

 美波は決断した。司城からあずかった携帯を取り出すと、まごつく指で番号を打つ。

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