三
「ちなみにこの優生保護法というのが改正されたのが九六年だから、ちょうど最後のマグダレン収容所が閉鎖されたときと同じだ。前にも言ったように、安室奈美恵をまねたアムラーと呼ばれる少女たちが街を闊歩していた時代まで、そういう法律が存在し、まぁ、さすがに数は少なくなっていたろうけれど、実行されていたんだ」
「ひ、ひどい……」
その事実が自分たちのこととどうつながるのか、だんだん美波は問題が見えてきて足が震えそうになった。
「つまり……負の遺伝を止めるため……、そのスプロー島の施設のように、問題のある女性、堕落した女性の血を引く女性に不妊手術をさせることを目的として、オブライエン博士と弟子たちはその参考資料として君たちの家系を調べているんだ」
参考資料――。劣等遺伝子という言葉と同様、その言葉がなまなましく美波の耳に響いてくる。
「それがこの学院の目的のひとつなんだよ。神父の方は、やや自己的ではあっても、中絶には反対なので、そのことが原因で後に二人は
美波は身体から血が引いていくのを感じた。
司城は眉をひそめてつづけた。
「勿論、現在の感覚では先進国や文明国で強制的に不妊手術をするなんてことは許されないはずだ。日本でも過去にそうやって無理やり不妊手術を受けた女性が裁判を起こしている。外国でも非をみとめて謝罪している。……」
けれど……、と司城はさらにつづける。
「恐ろしいことに狂人というのか、狂信というのか、オブライエン博士が亡くなってからも、その意志を引き継ぎ、負の遺伝を阻止するためだとか本気で信じこんでその研究をしている人間もいることは事実だ」
「そ、その人たちは、わたしたちが不妊手術すべきだと言うの? わ、わたしたちは劣った遺伝子や、悪い血を受け継いでいるから、子どもを産まないようにしろって言うの? わたしたちはそうなの?」
司城はその問いには答えなかった。
美波は目の前がぐるぐる回転しそうな気がした。
「落ち着いて聞いてくれよ。カリカック家の百年て知っているかい?」
夕子が言っていた話を美波は思い出し、首を縦に振る。
「一人の男性が二人のまったく立場のちがう女性とのあいだにつくった子どもの子孫を調べ、結果、知能のある上流階級の女性の子孫は皆優秀で、知能の低い貧困層の女性の子孫は皆犯罪者や精神に問題がある人だという話だけれど……、だがあの研究には疑問があるんだ」
「……」
「研究に
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