七
「あんたは知らないでしょうけれどね。あんたのお母さんもお
一瞬、裕佳子はぽかんとした顔になっていた。
「な、なに言ってるのよ?」
「本当のことよ。少なくとも、学院側がそう思っているのは事実よ」
「嘘よ! でたらめ言わないでよ!」
裕佳子は真赤になって叫んできた。
「そんなことあるわけないわ!」
「なんであんたがそんなこと知っているのよ?」
そう口をはさんできたのは、バーバラこと小早川紗江だ。
「……舎監室でこっそり見ちゃったのよ。あんたの調書。それだけじゃないわ」
心のなかで、もう一人の自分が止めろ、と叫んでいるが、もう美波の口は止まらない。
「あんたのひいお祖母ちゃんが亡くなった理由、知っている? 梅毒だったらしいわよ。梅毒って、たしか性病よね。あんたひいお祖母ちゃんは性病で亡くなったのよ。それも全部書いてあったんだから。学院長やシスターたち皆知っているのよ。学院側から見たらあんたも罪の子なのよ。生きてちゃいけない子なのよ」
「嘘よ! でたらめよ!」
猿のように顔をゆがめて叫ぶ裕佳子を、美波は蔑みの目で見ていた。
「いくらなんでも言い過ぎよ……」
そういう紗江の口調が弱いのは、美波の態度に嘘を言っている様子が感じられないからだろう。
また美波のなかで怒りの火がはじけた。
「そういうあんたは、虚言癖があるんでしょう? しかも、あんたのお母さんて、詐欺で訴えらえたんでしょう? それも調書に書いてあったわ」
紗江はぎょっとした顔になった。
他の生徒たちの息を飲む音が、暗くなった部屋にかすかにひびく。
「それで、あんたのひいお祖母ちゃんて、外人相手に売春して、それであんたのお祖母ちゃんを産んだんじゃない」
「う、嘘よ……」
震える紗江を美波は笑った。笑いながら自分は卑怯なことをしているという想いが、胸に大きな石のようにどしんと沈む。それでも口を閉じることはできなかった。
「嘘じゃないわよ。学院の書類にはそう書いてあるわよ。学院長やシスターの目から見たら、あんたもレイチェルも売春婦のひ孫なのよ。いくらジュニア・シスターだって
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます