「あんたは知らないでしょうけれどね。あんたのお母さんもお祖母ばあちゃんも水商売みたいなことしていたのよ。それで、あんたのひいお祖母ちゃんは、父親の知れない子を、ここで産んだのよ。それがあんたのお祖母ちゃんよ」

 一瞬、裕佳子はぽかんとした顔になっていた。

「な、なに言ってるのよ?」

「本当のことよ。少なくとも、学院側がそう思っているのは事実よ」

「嘘よ! でたらめ言わないでよ!」

 裕佳子は真赤になって叫んできた。

「そんなことあるわけないわ!」

「なんであんたがそんなこと知っているのよ?」

 そう口をはさんできたのは、バーバラこと小早川紗江だ。

「……舎監室でこっそり見ちゃったのよ。あんたの調書。それだけじゃないわ」 

 心のなかで、もう一人の自分が止めろ、と叫んでいるが、もう美波の口は止まらない。

「あんたのひいお祖母ちゃんが亡くなった理由、知っている? 梅毒だったらしいわよ。梅毒って、たしか性病よね。あんたひいお祖母ちゃんは性病で亡くなったのよ。それも全部書いてあったんだから。学院長やシスターたち皆知っているのよ。学院側から見たらあんたも罪の子なのよ。生きてちゃいけない子なのよ」

「嘘よ! でたらめよ!」

 猿のように顔をゆがめて叫ぶ裕佳子を、美波は蔑みの目で見ていた。

「いくらなんでも言い過ぎよ……」

 そういう紗江の口調が弱いのは、美波の態度に嘘を言っている様子が感じられないからだろう。

 また美波のなかで怒りの火がはじけた。

「そういうあんたは、虚言癖があるんでしょう? しかも、あんたのお母さんて、詐欺で訴えらえたんでしょう? それも調書に書いてあったわ」

 紗江はぎょっとした顔になった。

 他の生徒たちの息を飲む音が、暗くなった部屋にかすかにひびく。

「それで、あんたのひいお祖母ちゃんて、外人相手に売春して、それであんたのお祖母ちゃんを産んだんじゃない」

「う、嘘よ……」

 震える紗江を美波は笑った。笑いながら自分は卑怯なことをしているという想いが、胸に大きな石のようにどしんと沈む。それでも口を閉じることはできなかった。

「嘘じゃないわよ。学院の書類にはそう書いてあるわよ。学院長やシスターの目から見たら、あんたもレイチェルも売春婦のひ孫なのよ。いくらジュニア・シスターだって威張いばり散らしていたって、あんたたちも罪の子なんじゃない? あんたたちは罪の子の子孫なのよ」

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